EDP+
  • EDP+
2025/10/06Solution

「スライドショーでは意味がない」。SMK100周年で挑んだ、未来を示す映像づくり

  • 右から、寺西藍子さま(indigo, Inc.)、井川修治さま(SMK Corporation)、松元篤史さま(MATSUMOTO&ATSUSHI)、稲田開(EDP graphic works)

コネクタ、モジュールなどの電子部品やセンサ、アルゴリズムなどのソリューションの開発を手がけるSMK株式会社。2025年4月に創立100周年を迎えた同社にとって、その節目を象徴する取り組みのひとつが100周年記念映像の制作です。映像にどのような想いを込めたのか。依頼を受けたEDPは、限られた素材でどのようにその想いを表現していったのか。プロジェクトに関わったメンバーに舞台裏を聞きました。

100

今回EDPに依頼した映像は、SMK100周年を記念したものですね。記念事業としては、どのような取り組みを行っているのでしょうか?

SMK株式会社 井川修治さん(以下、SMK 井川さん)大きな柱となるのは、社内・社外それぞれに向けたイベントの開催です。特に社外向けイベント「SMK技術展 TEXPO 2025(以下、TEXPO)」は、SMKの歴史を感じていただくと共に、次の100年がイメージできるものにしたいと考えていました。

中期経営計画として「SMK Next100」という指針は決まっていましたが、イベントのテーマは改めて決める必要があったため、indigoの寺西さんに相談し、コピーライターの松元さんにもプロジェクトに加わっていただきました。経営層や事業部長などに、今のSMKに対して感じていることや未来像などを一緒にヒアリングしていただき、そこからテーマへと落とし込んでいきました。


なぜ、映像を作るという選択肢が浮かび上がってきたのでしょうか?

SMK 井川さんやはり、100周年の記念映像はあって然るべきではないかなと。決定したテーマや、そこに向かっていく姿を示すものをつくらなくてはと思ったのです。

ただ実は、SMKでは映像制作を行ったことがほとんどありません。創業時からの歴史をスライドショーで見せることも考えましたが、それではイベントの来場者の心に響かないし、社員をがっかりさせてしまうかもしれないという懸念もありました。会社として「変化し続けよう」とメッセージを伝えるためにも、心が躍動するようなものをつくり、次の100年に向かっていく社員の意欲を引き出したい。寺西さんからも「スライドショーでは意味がない」とはっきり言われて、背中を押されました。

 

indigo株式会社 寺西藍子さん(以下、indigo 寺西さん)そのとき、ちょうど別のプロジェクトでEDP 稲田さんの手がけた映像を見て、「今回の要件に合うかもしれない」と感じたんです。参考映像として紹介したことが、プロジェクトを動かすきっかけとなりました。


その映像を見て、EDPへの依頼を決められたのでしょうか?

SMK 井川さんそうですね。僕がネックに感じていたのは、手元にある素材が限られていることでした。参考映像はありものをうまく使ってつくられていたので、SMKの映像も同じように良い形にしていただけるのではないかと考えました。

.

今回、松元さまがつくられたナレーションが先にあり、そこから映像をつくっていったそうですね。

コピーライター 松元篤史さん(以下、松元さん):もともと経営陣や事業部長などにヒアリングして100周年のステイトメントをつくっていたので、それがほぼそのまま映像のナレーションになっています。ステイトメントをつくったのは、映像をつくることが決まる前ですが、そもそも「映像になれないステイトメントは良いものとは言えない」という意識を持っています。

 

EDP graphic works 稲田開(以下、EDP 稲田)ナレーションは、すごく映像のイメージが湧きやすいものでした。僕も言葉が先にあって絵をつくっていくケースが多いので、今回もその形で進めました。


SMKさまからはどのような素材が提供されたのですか?

EDP 稲田これまでに作ってきたパーツや製品の写真、会社の歴史を示す写真などの素材をいろいろいただきました。それを見ると、実はSMKさまの製品は、僕たちの暮らしの身近なところでたくさん使われているんですよね。だからこそ、その事実をきちんと伝えようと考えました。

ただし、制約もありました。たとえば、特定の自動車に組み込まれているパーツがあっても、その自動車全体の写真は権利上使えません。そのため、製品となった姿は抽象的なイラストにしたり、未来に関する部分はグラフィックで表現したりと、素材とグラフィックの組み合わせで過去から未来へとつながる表現を目指しました。

宿

グラフィック部分は、どのような考えでつくっていきましたか?

EDP 稲田ひとつの基準となったのは、100周年記念のロゴです。SMKの文字の周りに赤色で計8個の点が配置された企業ロゴと、「その技術にソリューションはあるか。」というステイトメントロゴがあります。どちらも意外性のあるポップさや遊び心が感じられるもので、グラフィックのトーンの設計に役立ちました。

 

indigo 寺西さん業態的に硬い印象があるので、ロゴは未来に向かうベクトルを感じられることを意識してつくっていただきました。

 

SMK 井川さんSMKには真面目な方が多いため、振れ幅の大きすぎる変化を示しても、誰もついてこないでしょう。もう少し身近で、自分ごととして受け止めやすい範疇での変化や遊び心を見せたいと考えて行きついたのが、この「その技術にソリューションはあるか。」というステイトメントロゴです。業態的に硬い印象もあるので、これらのロゴは未来に向かうベクトルを感じられることを意識してつくっていただきました。これらをベースにしていただいたのは、とても良かったと思います。


過去から未来への接続を示す表現は、どうやってつくっていきましたか?

EDP 稲田矢印のモチーフを多用し、未来への希望、未来へのベクトルを演出するとともに、時間の流れの表現にも活かしました。パーツとその結果としての製品というつながりも、矢印を用いて表現しています。

ちなみに矢印には赤と青の2色があり、赤は部品や技術、青はその先にあるソリューションを表すものと定義しています。映像の中でその色が移動したり、矢印として時間軸を示したりすることで、自然と「過去から未来へ」の流れが伝わるよう設計しました。


おもしろいですね。制作自体はスムーズに進みましたか?

EDP 稲田大きなNGをいただくこともなく、提案を受け入れてくださることも多かったので、全体的にスムーズに進んだのではないかと思います。

 

SMK 井川さん表現したい方向性は、ある程度ステイトメントとして固まっていました。そのため映像のチェックにおいては、そこから逸脱していないか、SMKの歴史として間違いがないかなどの確認がメインでしたね。クオリティに関しては、ほぼお任せでした。

 

松元さん一般的にCM制作では、映像のディレクターが直接クライアントに提案するケースはあまりありません。EDPさまは、ディレクターである稲田さんが自らプレゼンを行い、意見やフィードバックを受けて議論を交わし、実際の映像に落とし込むところまで一貫して担当しているのが特徴的ですよね。これが、スムーズに進んだ要因のひとつではないかと思います。フラットなコミュニケーションができて、ビジネス感覚もお持ちで、自身のこだわりだけでなく「どうするのがベストか」を考えて提案してくださるので、とても良いなと感じました。

 

indigo 寺西さんこの体制はEDPさまならではですよね。ディレクターの方の負担は大きいかもしれませんが、手を動かす方が直接コミュニケーションも行うからこそ、クライアントさまもやりやすいのではないかと思います。

 

SMK 井川さん期日が決まっているなかで、最大限のアウトプットを出すというゴールは全員一緒です。みんなでゴールに向かっていける体制をつくっていただき、とてもありがたかったです。

「SMK 100th」 詳細はこちら

実際に映像をご覧になった方々の反応はいかがでしたか? TEXPOでの放映を経ての感想もお聞きしてみたいです。

SMK 井川さん最初に事務局の関係者で映像を見た瞬間に得られた感触は「納得感」と「感動」でした。「TEXPOのエントランスでこの映像を放映すれば、来場したお客様もきっと盛り上がるはず」と自信を持つことができました。

またTEXPO当日には、副社長が重要なお客様を呼び止めてこう言ったんです。「まずはこの映像を90秒だけ見てください」。その姿を見て、「この映像をつくって良かった…!」と心から感じました。

 

松元さん実は、TEXPOの展示エリアの構成・演出も、映像の中に出てくるグラフィックやワード、矢印のモチーフを使っていたり、映像の流れに沿った展示になっています。こちらからの提案を取り入れてくださったことで、映像と展示全体とが連動した表現を実現できたのも、とても良かったですね。

 

SMK 井川さん実は依頼する前は、「映像=できあがってみてなんぼ」のように思っていて、かけた予算に対して満足できるクオリティになるのか不安がありました。昨今は「映像は誰でもつくれるもの」といった風潮もありますし、上層部からは「内製でできるのでは?」なんて意見もあったんです。でもEDPさまにお願いしたからこそ、想像以上の内容で非常に満足のいくものになったのだと思います。お願いして本当に良かったです。


ありがとうございます。今回の映像制作は、「変化への想いを示す」という狙いを持った取り組みでしたね。その点に対して、できあがった映像は貢献できたでしょうか?

SMK 井川さん「SMK Next100」という指針はあるものの、この先の100年なんて誰にもわかりません。それでもこの100年SMKが続いてこれたのは、変化し続けてきたからだと思います。それならば、次の100年も変化し続けていれば、生き残り、そしてより良い未来に貢献することができるはず。そういった想いを直感的に伝え、理解してもらうという点で、今回の映像は非常に有効でした。

社内向けイベントでのお披露目はこれからですが、社員にも「SMKってすごい会社なんだ」と思ってもらえるものになったと思います。今後は、ホームページなどさまざまな場所でこの映像を見せていければと思います。

 

松元さん100周年事業は、対外的な効果はもちろん、社員の皆さまを一つに束ねるという点でも意義のあるプロジェクトだと思います。そのなかで、この映像も大いに役立っているのではないでしょうか。

  • TEXPOの様子 1/3

    映像内で使用された矢印のモチーフなどが会場にも反映された。

  • TEXPOの様子 2/3

    入り口で今回手がけた映像が設置された。

  • TEXPOの様子 3/3

    入り口で来場者に映像が見られている様子。

最後に、取り組みを終えての感想をお聞きできればと思います。

EDP 稲田100周年という節目の映像となると、真面目で硬いトーンになりがちですが、遊び心ある表現なども受け入れてくださったからこそ、過去から未来へとシームレスにつなぐことができたと思います。積み重ねてきた歴史のすごみと、モーショングラフィックデザインとしての見やすさを良いバランスで組み上げるという点で、僕自身にとっても貴重な経験になりました。

 

SMK 井川さん私自身はマーケティング以外に、ハードウェアの製造・販売、関連するソフトウェアやサービスの立ち上げなどにも責任を持っているのですが、それらの実績が上がることも変化のひとつだと考えています。映像を通じて変化への想いを伝えた今、今後はそういった実績へとつなげていくことが重要だと考えています。

そうすれば、105周年、110周年など、SMKの姿を示す機会をもっと増やしていくこともできるはずです。実際、今回のTEXPOでは大きな反応や実感を得られました。この経験を、次へとつなげていきたいです。

SMK Corporation


電子部品メーカーとして世界的に事業を展開している日本企業。主としてコネクタ、スイッチ、リモコン、無線通信モジュール などの開発・製造・販売を行う。自動車、家電、通信機器、産業機器といった幅広い分野に製品を供給し、グローバルに拠点を持つことで安定した供給体制を確立。
近年ではセンシング技術とアルゴリズムの融合や、国内外の研究機関や企業との オープンイノベーション を積極的に推進し、IoT・ヘルスケア領域をはじめとする次世代技術の開発と新規事業の創出に取り組む。

井川 修治


キャリアのスタートから一貫してマーケティングに携わり、携帯電話事業では業界初となる専用サイトを企画し、メーカーから社長賞を受賞。その後、モバイルマーケティング会社の立ち上げに参画し、事業企画やマーケティングを統括。さらに自ら会社を設立し、セキュリティソフトの開発・販売に取り組むなど、起業から経営まで幅広い経験を積む。ソフトウェアやクラウド、SaaSといった分野での事業展開を経て、2016年には活動領域を海外やモノづくりへと広げるべくSMKに参画。IoTやアルゴリズム開発をはじめ、オープンイノベーションを活用した新規事業開発を推進。
2024年、イノベーションセンターを設立し、新規事業開発とマーケティングの両部門を統括。

SMK社100周年の社外向けイベント「SMK技術展 TEXPO 2025」実行委員会の事務局責任者。また、イベント、ウェブサイト、映像など全般を統括。

松元 篤史


ADKを経て、2019年独立。おもな受賞歴は、東京コピーライターズクラブ新人賞、 ACCフィルム部門シルバー、ACCラジオCM部門シルバー、ACCフィルム部門ブロンズ、 JAA賞 経済産業大臣賞など。東京コピーライターズクラブ会員。

SMK社100周年のクリエイティブ領域全般に従事。今回の映像制作では、ナレーションやコピーを担当。

寺西 藍子


広告代理店で日本・グローバル企業の国内外のマーケティング活動に携わった後、新規事業開発に従事。大企業目線、スタートアップ目線共に合わせ持ち、五感に通ずるコミュニケーションに寄与すべく2020年にindigo株式会社を創業。企業の新規事業開発のハンズオンサポート、事業視点でのブランディング&PRの実施、MaaS、Fintechを含め、グローバル視点での街づくりにおけるプランニングを行う。

SMK社100周年全般のブランディング、テーマ設定などで参加。今回の映像制作においても進行面のサポートを担当。

Direction:鈴木 絢香(EDP graphic works Co.,Ltd.)

Interview&Text:長島 志歩
Photo:谷口 大輔