想像の余地があるから人を巻き込める。NFTプロジェクト『アイリダ』コンセプトムービーが目指したもの
総合映像プロダクションである株式会社東北新社が立ち上げた、近未来の渋谷を舞台にしたNFTプロジェクト『アイリダ』。そのコンセプトムービーをEDP graphic worksで制作しました。NFTという新しいエンタテインメントへの挑戦にモーショングラフィックデザインを用いた背景やその制作過程について、同社プロデューサーの松田洋平さまとEDP担当ディレクターの伊良皆貴大にインタビューを行いました。
新しいエンタテインメントへの挑戦―NFTプロジェクト『アイリダ』
ーまずはじめに、『アイリダ』プロジェクトが立ち上がった背景について教えてください。
東北新社 松田洋平さま(以下、松田):弊社はもともと映像制作だけでなくBS・CSチャンネルの運営などさまざまなビジネスを展開しているのですが、その中で「声優」や「オカルト」などコアファンの多いジャンルの番組制作やイベント運営などを行ってきました。僕自身もYouTubeの運営に携わっており、コンテンツを通じてファンをコミュニティ化したり、Web3やDAOといった新しい動きとを組み合わせていくことをエンタテインメントビジネスの指標のひとつとしています。
そんな中で、社員がSF小説を書いたという話を聞いたんです。舞台は渋谷で、特殊なコンタクトレンズをつけると自分の服装も周りの景色も一瞬で近未来へと様変わりする―それが『アイリダ』です。著者の岸正真宙さんからも「この作品を広げてほしい」と相談を受け、NFTを絡めた『アイリダ』IP化のプロジェクトが始まりました。
『アイリダ』公式サイト:https://iri-do.com/
ーNFTは昨今のエンタメにおけるキーワードのひとつですね。どのような特徴があるのでしょうか?
松田:NFTとは、ブロックチェーン技術を基盤に作成された代替不可能なデジタルデータのことで「非代替性トークン」とも呼ばれます。アーティストがつくった画像や映像などを紐づけることができ、それらが流通し売買されることで価値が上下するという仕組みです。最近では一つの絵柄をベースにさまざまなパーツを組み合わせて大量の作品をつくる「ジェネラティブNFT」も増えています。
そういった投機的な一面とは別に、NFTの購入には「プロジェクトの応援・支援」という一面もあります。プロジェクトが広まれば広まるほど購入した方の利益にもなるため、熱心に応援してくれるファンを巻き込んで一緒にIP開発を進めることができるんです。
この二つは一長一短とも言えます。コンテンツを育てるという観点では熱狂して応援してもらうための純粋さが必要で、投機対象として見られることには少しネガティブな部分もあります。しかしビジネス面を鑑みると、値上がりによって得られる手数料は非常に重要な収入源となるため、発信においてはこの二つの見え方のバランスが非常に重要だと感じていました。
デザインとモーションを一貫してコントロールする力が必要だった
ーそんな中でEDPへご依頼を頂いたのは、どのような理由からでしょうか?
松田:プロジェクトを紹介するにあたり、やはり何かしら映像をつくろうと考えていました。ただし映像制作会社がつくる以上中途半端なものは出せませんし、やはりあっと言わせるようなものをつくりたい。実は実写で制作する可能性も考えたのですが、予算との兼ね合いだけでなく、コンテンツ自体との相性やキービジュアルをインパクトを持って見せることを考え、実写ではなくモーショングラフィックスにしようと決めました。
モーショングラフィックスでやるとなれば、EDPさんにお願いすることはすんなり決まりました。重要視していたのは、デザインとモーションを一貫してコントロールする人がいること。その二つが分かれてしまうと「ここのデザインがもっとこうだったら、モーションももっと魅力的になるのに…」といったことが起きがちなんです。
デザイン自体もかっこいいからこそ、モーションもかっこいいものができる。社内でつくることもできますが、自社でやりきるよりEDPさんにすべてコントロールしてもらいたいと考え、ディレクションから一式まるっとお任せすることにしました。
ーオリエンテーションでは、どのようなオーダーを出されたのでしょうか?
松田:最初のオリエンで伊良皆さんにお伝えしたのは下記のような項目でした。正直かなりざっくりしたオーダーで、表現方法はお任せするつもりでした。
・アイリダのロゴからスタート
・渋谷を舞台にしたプロジェクトであることを伝えたい
・渋谷に3つのワールドがあることを伝えたい
・最後にキービジュアルで締めたい
EDP伊良皆貴大(以下、伊良皆):原作小説がベースにはありますが、今回つくるのはプロジェクトのコンセプトムービーです。明確なストーリーがあるわけではないため、あらすじムービーにならないように心がけました。
制作の目的として松田さんからお聞きしたのは、「世界観を伝えること」です。どんなものにするべきか考えをまとめるために、まずは自分なりに画が見えてくるところまで持っていくべくデザインのイメージを膨らませていきました。
「インパクト」と「想像の余地」を両立させる
ーオリエン後の制作のステップについても教えてください。
松田:ロゴや画像など提供できる素材をお渡しし、伊良皆さんから構成案を頂きました。それがこちらです。
伊良皆:素材を頂いて、とにかくまずはイメージボードをつくっていきました。素材として頂いたキャラクターイラストの良さを殺さないようにしつつ、とはいえイメージを寄せすぎることもないように合間を探っていくような感じでしたね。原作の中からキーワードになりそうな単語をいくつも拾ってきて、それらをヒントにしながらチームメンバーと連携してつくっていきました。
松田:よく考えたら、世界観のリファレンスを出すのが普通ではありますよね。失礼な発注をしていたかな(笑)。
伊良皆:いえ、むしろ任せてくれているのを感じて嬉しかったです。
松田:EDPさんは広告の仕事も多くやられていますが、今回はそれらとはすこし毛色の違うプロジェクトとして、自由に遊んでもらいたいと思っていました。EDPさんがこれまでにつくってきたものもわかっていたので、まったく心配はありませんでしたね。
伊良皆:ありがとうございます。リファレンスの有無に限らず、ディレクターとしてまとめあげていかなければということはいつも以上に感じていたので、コンテを出すときは緊張しました(笑)。
松田:コンテの時点で最高で、微修正はありましたが基本的にはそのまま進めてもらいました。
伊良皆:やはりいくらモーションを頑張っても、元のデザインが良くなければいい作品にはなりづらいので、デザイン部分に時間をかけさせてもらえたのがよかったなと思います。
ー制作にあたり、特にどのようなポイントを重視しましたか?
伊良皆:このプロジェクトはまだ始まったばかりで、いろいろな人が想像して楽しんでいる段階です。いい意味で宙ぶらりんにしておくことが大切で、僕が詳細に視覚化しすぎてはいけないと感じました。
そのため、建物や街のディティールを必要以上に詰めずシンプルなものにしています。細かなパーツはつくっておらず、シンボルのような感じですね。これから広がっていくコンテンツであることを踏まえ、今後いろいろなものをつくれる余地のある表現に留めるように注意しました。
松田:そこまで察して頂けてありがたいです。
もう一つのポイントとして、この映像は主にTwitterで見せていくので、タイムラインを流れていくときに目を引くものにしたいと考えていました。その点でも色や動きなど、狙い通りのものができたと感じています。
伊良皆:視覚化しすぎないように注意しつつも、映像にインパクトはほしかったんです。そのため、カットをかなり細かく刻んで畳みかけるような構成にしています。一人の主人公の歩む道筋を描くようなものとは異なり、かっこいいカットをたくさんつくってそれらを詰め込んでいくため、ある意味「大喜利」的な発想を大切にしました。1回見ただけでは全貌はよくわからず、だからこそ何回も見たくなる映像になっているのではないかと思います。
映像をプロジェクトの名刺代わりに
ー無事1月に公開となりましたが、反響はいかがですか?
松田:ありがたいことに「かっこいい」「クオリティが高い」などたくさんの反響を頂きました!原作の岸正さんも非常に喜んでいましたね。
伊良皆:お任せいただいた分こちらからの提案的な側面が強かったので、いい反応を頂けたのはとても嬉しいですね。
ー最後に、『アイリダ』プロジェクトの今後の展望について教えてください。
松田:プロジェクト全体としては「実際にアイリダを実装すること」を最終目標に掲げています。そのためにまずは『アイリダ』を人気コンテンツに育て上げることが重要で、現在はWebtoonやMV制作、アニメ制作などを目指してプロジェクトを進めています。
今回のコンセプトムービーは、アニメの世界観につながる土台づくりなどとは少し趣旨が異なり、NFTプロジェクトとして今後のIP化に多くの人を巻き込み応援してもらうために、プロジェクトやプロジェクトをつくっているチームのセンスを示すことが非常に重要でした。それをインパクトを持って知らせるという目的は、おおむね叶えられたのではないかと感じています。このコンセプトムービーを名刺代わりにして、今後もプロジェクトを推進していきたいと思います。
松田 洋平(まつだ ようへい)
TVCMを中心に映像制作・プロデュースを10年以上経験したのち、東北新社 エンタメ開発部にてコミュニティビジネスを中心とした新規事業開発に参画。趣味は銭湯サウナ巡り。東京だけでなく全国の温浴施設を巡っているとのこと。アイリダプロジェクトでは映像制作全般のプロデュースと共にプロジェクトの推進や対外交渉など幅広く担当。
株式会社東北新社
東北新社は、映像に関するあらゆる事業を行っている「総合映像プロダクション」です。CM制作、プロモーション制作、グラフィック・WEB制作、音響・字幕制作、番組・映画制作、ライセンス営業、BS・CS放送関連事業、ネット配信事業など、幅広い事業を展開しています。