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2022/02/18Solution

アートの循環を映像で伝える 〜ヘラルボニー「全日本仮囲いアートミュージアム」〜

「福祉」という言葉にどのような印象を抱きますか?「異彩を、放て。」をミッションに掲げる福祉実験ユニットの株式会社ヘラルボニー様の展覧会「ヘラルボニー / ゼロからはじまる」で放映された映像を、EDPが担当しました。ヘラルボニー様の思想に共感したことから始まった今回の取り組みについて、同社 代表取締役副社長 松田 文登様、取締役 佐々木 春樹様とEDP プロデューサー 高野 俊一、EDP代表取締役兼ディレクター 加藤 貴大に伺いました。

ーヘラルボニーの活動について教えてください。


株式会社ヘラルボニー 松田 文登様(以下松田)

障害のあるアーティストとライセンス契約をし、彼らのアートを販売して持続的な収益化をすることで、障害のある方々の社会的な地位の向上と月額平均賃金の上昇を目指しています。福祉というとNPO等の活動のように思われますが、ヘラルボニーはあくまでもビジネスとして、正当な評価と対価を受けるために関わることを決めています。

活動を始めたきっかけは、岩手県花巻市にあるるんびにい美術館で障害のある方々のアートを見たことでした。そこから、アートを通じて社会の目線を変えていきたいと思い、現在も続けています。今回作っていただいた映像を投影している展覧会「ヘラルボニー / ゼロからはじまる」は、当時の体験やその後の活動をテーマにしています。


株式会社ヘラルボニー 佐々木 春樹様(以下佐々木)

僕は、ヘラルボニーに参加するまではコレクションブランドのファッションデザイナーでした。その傍ら、10年ほど前から、ダウン症の方々と健常者が幸せに暮らせるような街づくりのプロジェクトを行なっていました。そのためヘラルボニーの活動を知った際には、単純にお手伝いをしたいという思いで連絡を取りました。そこから紆余曲折があり、現在はヘラルボニーのアートライフブランド「HERALBONY」でプロダクトのデザインを統括しています。


ークリエイティブ面で心がけている事はありますか?


松田

ヘラルボニーは障害のあるアーティストのアートやプロダクトを販売する会社というよりも、「障害=欠落ではなく、個性や違い」という思想を提案する会社だと思っているので、そこに共感をしてくれる方とクリエイティブに取り組むということを大切にしています。


佐々木

プロダクトデザインの観点から見ると、多くのファッションブランドは毎年大量のデザインを生み出し、プロダクトをつくり、そのうち在庫となった多くのものがゴミとして捨てられています。ビジネスのサイクル上仕方ないところもありますが、その事実に疑問を持っていたため、HERALBONYではネクタイやハンカチ、カードケースのような流行り廃りが少ないものをベースにデザインするようにしています。商品としても素晴らしいものを届けつつ、あくまで適正価格を設定し、しっかりと利益をあげ、作家さんへ還元することを原則としています。ものづくりでがっかりさせたくないですし、使った人もまた買いたい、紹介したい、と思うような商品にしていきたいと思っています。「全日本仮囲いアートミュージアム」(:工事現場に設置される仮囲いにアートを展示し、新しい価値を創造する地域活性型のアートプロジェクト)というソーシャル美術館のプロジェクトでは、展示したアートをバッグなどのプロダクトに作り変えるアップサイクルにも取り組んでいます。

使

ーどのようなきっかけで映像を作ることになったのでしょうか?


松田

前述の「全日本仮囲いアートミュージアム」を今回ギャラリーの展示としても使用しないかというアイデアがでたのですが、本来は工事現場で使用される仮囲いをどのように展開するかかなり悩みましたね。ターポリンという特殊素材にプリントされた作品を実際に展示するという案もあったのですが、アートがプロダクトになるまでの過程を紹介するには映像がよりいいのでは、と発展しました。以前、イベントに登壇した際にEDPの高野さんと連絡先を交換しており、サイトを拝見したところクオリティの高い映像を作っていると感じましたので、ご相談させていただきました。


EDP graphic works 高野 俊一(以下高野)

福祉というとソーシャルグッドのようなイメージばかりが先行してしまうと思うのですが、実際のアートやそれを使ったプロダクトのデザインが素晴らしく、非常に意義があるものだと思い、当時はイベントのピッチを聞いてすぐにご連絡させてもらいましたね。EDPとしても何かお手伝いしたいと考えていたので、今回声をかけていただいてとても嬉しかったです。


ーどのように映像を作っていきましたか?


松田

今回の映像はビジネスモデルを紹介するものではありますが、ギャラリー内で投影されるので、アートとしても成り立つようにと考えていました。今までも、実写映像を繋げ作家にフォーカスしたドキュメンタリー調の映像は作ったことがありましたが、我々のビジネスモデルを紹介した映像を作ったことはなく、モーショングラフィックデザインという今までに使用したことのない表現方法に期待感がありましたね。


EDP graphic works 加藤 貴大(以下加藤)

作家さんのアートが展示されてそれが商品になるという、仮囲いミュージアムの一連の流れを映像にしたいとお伺いしていたので、どのような温度感で伝えれば固くなりすぎないか、どういった展開であればギャラリーに馴染むかなど、実際にギャラリーに来て確認しました。

ー映像を作ってみていかがでしたか?


佐々木

実際にギャラリー内で、映像の前で立ち止まって見ている来場者も多く見かけ、映像のコンテンツとしての強さはやはりあるなと思いました。


松田

映像としてもすごく素敵に仕上げていただいて、我々の取り組みについて知らない方が見ても直感的にわかるものになりました。


加藤

映像を作っているときにも感じたのですが、アート自体は細かく描き込みがされていて、作家さんの熱量がすごいですよね。アップのカットを入れることで、作家さんの熱量を感じてもらえるようにできたかなと思っています。


高野

モーショングラフィックデザインはデザインの柔軟性も優れていますが、特にわかりにくいものをわかりやすく伝えるということに長けています。1分程でビジネスモデルの全容がわかるようにできるのは、モーショングラフィックデザインを使うメリットですよね。


松田

そうですね。ヘラルボニーの事業は説明を確実にしないと、私たちが伝えたい「アート作品が素晴らしい」ということとは、違った認知のされ方をされてしまうのですが、映像を用いながら説明をすることで、エモーショナルなところにも訴えかけられるようになったと感じます。

加藤

普段は広告のような瞬発力のある映像を多く手がけますが、その一方で、こういった空間演出や長期間存在していくものも作っていきたいと思っています。誰かのためにとか、何か生活にちょっと彩を与えてくれるものを引き続き作っていきたいと思いました。


高野

EDPのウェブサイトをリニューアルしながら、「Motion Graphic Design for Human Life」というブランドステートメントを作りました。まさに、誰かのためになるモーショングラフィックデザインを作っていきたい。ヘラルボニーさんの活動が「支援ではなくビジネス」であるのと同じように、EDPの作るモーショングラフィックデザインが誰かの力になればと、日々加藤や他のメンバーと話しています。この映像がきっかけとなって、ヘラルボニーさんの活動を知る人が増え、さらに活動に共感する人が増えるといいなと思いますね。


加藤

今回障害のある方と作品を通してご一緒して、ものを作る一人の人間としてすごく対等だなと思いました。今までも作品やデザイン性の優劣を意識したことはなかったのですが、実際の作品をまじまじと見たときに、「これすごいな」と単純に思ったんです。その時点で、ものを作る人間として、対等だなと感じましたね。「障害=欠落ではなく、個性や違い」というのは、このプロジェクトに参加させてもらった中で、一番刺さり、改めて考えさせられた言葉でした。


松田

ヘラルボニーのメンバーは、障害の有無の前に一人の人間として対等に見るということが根付いていると感じます。そういった、私たちにとっては当たり前でも、社会にとってはまだ当たり前でないことは多く存在します。私たちが活動を続けていくことで、社会にある障壁が徐々になくなっていけば嬉しいですね。

EDP graphic worksは「Motion Graphic Design for Human Life」をブランドステートメントに掲げ、モーショングラフィックデザインを通して人々の心を動かすことを目指しています。小さな発見や心の変化は、私たちの日常に彩りを与えてくれます。私たちと一緒に、生活をより豊かにするための映像を作りませんか?

松田 文登(まつだ ふみと)

株式会社ヘラルボニー 代表取締役副社長


大手ゼネコン会社で被災地の再建に従事、その後、双子の松田崇弥と共にへラルボニーを設立。自社事業の実行計画及び営業を統括するヘラルボニーのマネジメント担当。岩手在住。双子の兄。日本を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞。

佐々木 春樹(ささき はるき)

株式会社ヘラルボニー 取締役


株式会社ikurahdesign代表。ファッションブランドFRAPBOIS(フラボア)のデザイナーを15年勤め、2018年にへラルボニーにジョイン。ダウン症の人々が描く創作活動をサポートするプロジェクト「ダウンズタウン プロジェクト」での商品をプロデュースした経験を活かし、HERALBONYのプロダクトデザインを担当。

【株式会社ヘラルボニーについて】


「異彩を、 放て。」をミッションに、 福祉を起点に新たな文化を創ることを目指す福祉実験ユニット。日本全国の主に知的な障害のある作家とアートライセンス契約を結び、2,000点以上のアートデータを軸に作品をプロダクト化するブランド「HERALBONY」など、福祉領域の拡張を見据えた多様な事業を展開。社名「ヘラルボニー」は、知的障害がある両代表の兄・松⽥翔太が7歳の頃に⾃由帳に記した謎の⾔葉。「⼀⾒意味がないと思われるものを世の中に新しい価値として創出したい」という意味を込めている。

 

会社名:株式会社ヘラルボニー / HERALBONY Co.,Ltd.
所在地:岩手県盛岡市開運橋通2-38
代表者:代表取締役社長 松田 崇弥、代表取締役副社長 松田 文登
公式サイト:
https://www.heralbony.jp
https://www.heralbony.com

Interviewee  加藤 貴大、高野 俊一 (EDP graphic works Co.,Ltd.)

Photo     谷口 大輔

Text     大野 泰輝、柴田 綾乃 (EDP graphic works Co.,Ltd.)