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2023/09/27Philosophy

「感じたまま」をスタイルとする2人のケミストリーが香る空間を。写真×珈琲の異色エキシビション「然」を終えて

2023年9月8日(金)から11日(月)まで、渋谷SOBERを会場に行われたエキシビション「Photo Exhibition 然」。企画とディレクションをEDP graphic works(以下、EDP)の前田光朝が担当し、焙煎技術を独学で追求しながら国内外問わず音楽イベントやアート展、様々な催事にて珈琲を振る舞われているDells Coffee 高橋遥さんと、幼いころから自然豊かな土地で育ち、自然から感じる豊かさを伝えられる活動の1つとして写真に取り組んでいるフォトグラファーの岡田龍之介さんとのコラボレーションにより実現しました。今回は会場となった渋谷SOBERに3名が集い、本イベントの成り立ちからそれぞれのクリエイティブに対する考え方までゆるりと語り合います。

 

Member

・EDP graphic works 前田光朝
・フォトグラファー 岡田龍之介さん
・Dells Coffee 高橋遥さん

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ー今回の「Photo Exhibition 然」は「写真 × 珈琲」という一風変わったエキシビションですね。どのような流れで企画が立ち上がったのでしょうか。

 

EDP graphic works 前田光朝(以下、EDP前田):EDPとしてモーションなどの動画制作だけでなく、新たなカルチャーを生むような新しい試みに貢献できないかと検討しているところでした。その中で、イベントの企画やディレクションなどもやってみようと模索しており、ふと2人のことが頭に浮かんだんです。僕はよく遥君(高橋さん)のお店「Dells Coffee」に珈琲を飲みに行っていたんですが、龍之介君(岡田さん)もそこに通うお客さんで、「写真を撮りためている」と聞いていました。直感で「2人がコラボレーションしたらおもしろいのでは」と思いましたね。

 

写真と珈琲が共存する空間をつくることは、僕自身にとっても新しい試みです。Dells Coffeeで美味しい珈琲を飲みながら、そこに集うさまざまな人と話す時間はとても心地よくて、それこそひとつのコミュニティでありカルチャー。それを写真とかけ合わせてみたらどうなるのか、トライしてみたいという想いが沸きました。


ーモーショングラフィックデザインを主軸にするEDPとしても、はじめての試みですね。

 

EDP前田:EDPのメンバーでエキシビションを開く案もあったんですが、まずはいろいろな決まりごとを忘れて、純粋に僕が「おもしろい」と感じることをやってみようと考えました。それが、結果的にみんなのモチベーションにもつながるんじゃないかなと。リモートワークによって自然な会話が減ってしまったからこそ、「仕事」の意識をちょっとゆるめて、みんなにとって刺激になったり、意識を外に向けるきっかけになる場が必要だと感じていました。

ー龍之介さんは、普段はどのような写真を撮られているのでしょう。

 

岡田龍之介さん(以下、龍之介さん)撮りはじめたきっかけは友人から借りた35ミリのコンパクトカメラで、「自分の目で見て切り取った瞬間を、写真を通して振り返る」ということに魅力を感じました。そこから人を撮るようになったのですが、僕が写真を撮るのには「どんな角度からでもいいので、人がピークに達した瞬間を切り取りたい」という想いが強くあって、「喜怒哀楽を強く感じたら、とにかく撮る」という感じでハマっていきました。自分も一緒に盛り上がったら写真は撮れないわけで、徐々にその瞬間を斜で見て記録を残すことを選ぶようになっていきました。コンパクトカメラなので、「え、今撮るの?」みたいなタイミングでフラッシュをたいて撮ったりしています。

 

EDP前田:写真家になりたくて写真を撮っているわけじゃなくて、ピュアな動機で撮っているのがいいよね。その方がわくわくするというか、可能性がある気がする。

 

龍之介さん:でも、こうやってエキシビションとして「人に見てもらう」ことが決まってからは意識が変わって、「見た人がどう感じるか」を考えるようになりました。

 

また今回に関していうと、やっぱり「遥と一緒にやる」ということが大きかったですね。4日間通しの開催で、珈琲も出すということであれば、2人らしい空間をつくりたいなと。はじめは撮りためた写真の中から選ぶつもりでしたが、写真と珈琲をセットで空間を感じられる、楽しめるということを大切に写真を選んでいきました。


ー今回展示した写真は、どのようなことをイメージして撮ったのでしょうか。

 

龍之介さん:Dellsが「鬱蒼とした」という意味なので、自然の写真をモノクロで見せたくて、ほぼすべて山に入って撮りました。

 

人に見てもらうことを考えるようになっても、「見つけたら、撮る」というスタイルは一貫しています。奇をてらったり、構図や撮り方を深く考えて撮ることはほとんどありません。今回も持てるサイズのカメラを持って山に入り、登山のときもあれば野営もあるし、ピクニックや散歩、走ったりなど、そのときどきで動きながら気になったら撮る感じで撮影しました。

 

EDP前田:山の中に「いい構図」を探しに行くのかと思っていたけど、「その環境に自分が身を置いてみて、気になったものがあれば撮る」というイメージが近いのかな。

 

龍之介さん:そうですね。気になるものを見つけたら、1枚ぱっと撮ってみるんです。「この角度のほうがいいかな」と構図を調整してみたりもするけど、そうすると全然おもしろくなくなってしまって、結局「1枚目が一番良い」ということがほとんどです。

 

きっと僕の中でのカメラとの向き合い方は、「創造」よりも「発見」なんだと思います。目で見た感覚が「撮りたい」の感覚とイコールというか。創造はライフスタイルをチョイスする段階にあると思うので、写真を撮るときには考えていません。

 

EDP前田:カメラと龍之介君の「目」の距離が近い感じがするんですよね。本人のピュアな気持ちをありのまま出して、それを人が見てどう感じるのか探っているのかもしれません。

ー遥さんは、今回のエキシビションにどのように臨みましたか。

 

高橋遥さん(以下、遥さん):「3人の仲良しが組んだら、何かできるだろう」ぐらいのラフな感じで臨みました。

 

写真は1-2週間前に選んでもらい、それを見た上で合う珈琲豆を選びました。いつもイベントに出店するときは、「アジアの音楽イベントならアジアの豆」などわかりやすいセレクトをしますが、今回は写真に合わせて山の中の鬱蒼とした感じをイメージして、微妙な違いのあるブレンドを2種類用意しました。当日は、お客さんの様子を見ながらどちらにするか決めていました。

 

EDP前田:いつもお店でも、「夕方だからこれが合いそう」「今日の湿度にはこれが合うよ」などと言って選んでくれるのがおもしろいよね。

 

遥さん:セレクトには具体的な基準があるわけではないし、自分のものさしでしかないですけどね。僕がしているのは「正しく調理したものを出す」ことではなく、「僕が今いいと思うものを提案する」ということなのかなと。

 

もちろん、お客さんの反応は気になります。ただ何が口に合うかはわからないから、自分が持っている中で何がハマるのか、会話の中から探っていたりします。大前提として、人それぞれ美味しいと感じるものは異なるもの。出した珈琲に対してどうだったかを聞いて、次に来てくれたときは好みに合わせて調整するようにしています。

 

龍之介さん:遥の焙煎スタイルって、かなり珈琲との距離感が近いなと思っています。大きな焙煎機を使えば時間や温度をデータで見れるけど、そうせずに、豆との相性を追及してるんだなって。

 

遥さん:深煎りのつもりで豆を焼き始めても、香りや音を聞いて中煎りぐらいの頃にあげちゃうこともありますね。昔は温度計で測っていたこともあったし、「この温度になったら豆を投入して…」というお作法に則っていたこともありましたが、今は自分の感覚を頼りにしています。

 

EDP前田:龍之介君が写真を撮るスタイルと、遥君が豆を焙煎するスタイルは、ある意味一緒なのかもしれない。対象と対峙する距離の近さとか、自分の感覚を大切にしているところとか。

 

龍之介さん:奇をてらわない動作にこそその人自身のセンスが出るし、そこには日々のチョイスの積み重ねが現れるものですよね。僕は「発見」したらすぐに撮るからこそ、ライフスタイル自体が「いい写真を撮れるもの」になっていたらいいなと思っています。

 

EDP前田:何度も考えてつくるのではなくて、感じたことを自然にそのままアウトプットしている感じなのかな。意図や狙いが極力ない、ナチュラルなクリエイションが2人の共通点かもしれないね。

ー今回のエキシビションは、渋谷SOBERが会場というのも異色のポイントでしたね。

 

EDP前田:企画の当初から、「空気づくり」「空間づくり」が最も大切だと考えていました。「作品を見せる」「珈琲を飲ませる」ではなくて、「ふたつがあいまった空間をつくる」ことが大切だなと。珈琲を飲むついでに写真を見てもいいし、写真を見るついでに珈琲を楽しむでもいい、そのどちらでも正解だと思います。だからこそ、いわゆる白壁のギャラリーでやるエキシビションとは異なる空間が必要だったんです。

 

龍之介さん:僕はそもそも「もっと写真を見て!」というつもりでやっていません。もともとSOBERで働いているのですが、それもあくまで飲食の仕事としてです。そのバランスについては常にどうしたらちょうどいいか考えていたので、今回のような独特の空間をつくることは、とても重要なポイントでした。

 

遥さん:SOBERを4日間エキシビション会場に変えるために活きたもののひとつが、ターンテーブルです。音楽と珈琲は基本セットで考えているので、写真と珈琲に加えて音楽ともマッチングさせました。

 

EDP前田:2人とも普段から飲食の場に立っているから、エキシビションでは完全におもてなしモードでエンターテイナーになっていたんですよね。写真や珈琲のことを聞かれたらもちろん応えるけど、切り替えているわけではなく自然に同居していて。その両面を行ったり来たりしているのが、とてもおもしろかった。

ーエキシビションを終えて、いかがでしたか。感じた手ごたえや、これからの展望について聞かせてください。

 

EDP前田:こういったイベントは初めてだったので、どうなるか不安はありましたが、来てくれた人が満足してくれているのを感じて嬉しかったですね。説得力のある空間になったのではないかと思うし、それができると人は満足してくれるんだなと実感しました。

 

龍之介さん:エキシビションをやってみて、本当に気持ちが豊かになったのを感じます。つくりあげていく過程では写真のことばかり考えていましたが、その時間がとても充実していたし、心地よいストレスを得られたなと思います。これまでは持っていなかった「写真を見てもらいたい」という気持ちも生まれてきて、背中を押してもらえたような感覚です。写真がいろいろな人とのコミュニケーションのきっかけになるとわかったので、もっと山や海、知らない街などに行って、たくさん撮っていきたいですね。

 

遥さん:僕自身としては、先日テナント契約を結び、10月から新しくお店の開店準備を始める予定です。今回は完全に一人で世界観をつくることになるのですが、どうなるか今からとても楽しみです。

 

EDP前田:2人のように、ライフスタイルからナチュラルにクリエイティブでいられるような場やコミュニティ、カルチャーを、今後EDPとしてもっともっとつくっていきたいですね。できあがったものを揃えたり、有名な方を集めるのではなく、龍之介君のように気づきを得てもらったり、次につながるきっかけを生んでいくようなことをやっていければと考えています。

 

今回のエキシビションからは、本当にたくさんのヒントをもらいました。やっぱり幅広い人たちと関わりを持つことが大切だし、欲しいリアクションをもらうにはこちらからアクションを起こさないといけない。そこで生まれる会話は、普段とはまた一味違うものになるはずです。今後もそういう機会づくりをしていきたいですね。

 

※エキシビジョンの様子をスライドショーでお楽しみいただけます。是非ご覧下さい。


1977年沖縄県生まれ。2005年よりEDP graphic works に参加。
インフォグラフィックスを使った丁寧な情報伝達から企業ブランディング映像、ストーリー性のあるアブストラクトな表現までをモーショングラフィックスや実写を用いジャンルにとらわれることなく演出。

近年の作品は「freee株式会社 CI」「NHK 高校講座 数学I OP」「北村写真機店 VI」「NICOLESS CM」「shu uemura プロモーション映像」など。


幼少期から京都日本海沿いの自然豊かな土地で育つ。遊び場は山、川、海。
その影響からか、東京に住みながらも登山や野営など山遊びに没頭する。山遊びを共にする友人から預かったカメラをきっかけに写真を撮るようになる。都会と自然を行ったり来たり、自然から感じる豊かさを伝えられる活動の1つとして写真に取り組む。

Dells Coffee 高橋遥


大阪市鶴見区に生まれ、学生時代行きつけの喫茶のマスターに魅了され、出張珈琲を開始。
関西に始まり、現在は国内外問わず音楽イベントやアート展、様々な催事にて珈琲を淹れる。
珈琲機器の内部まで理解する為、マシンエンジニアに身を置つつ同時に焙煎技術を独学で追求。どっしりとコク深い珈琲を得意とする。

Photo              谷口 大輔

Interview&Text  長島 志歩