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2023/01/19Philosophy

ロジックを強みに、「好き」をカウンターに。EDP graphic worksが2023年に目指すもの

EDP graphic worksでは、2022年もさまざまなプロジェクトを通じて映像の世界をとりまく変化を感じながら、「“デザインを動かす”ことで、“人の心を動かす”」という使命のもと活動してきました。その流れはもちろんのこと、2023年はさらなるフィールドへの挑戦も志しています。今回はEDP代表 加藤貴大へのインタビューを通して、2022年の振り返りと2023年への展望をお届けします。

2022

2022年は「もはや広告だけが影響力を持つ時代ではない」といっそう強く感じた1年でした。この変化は今に始まったことではありません。コロナの影響によるものとする見方もありましたが、世の中が落ち着きを取り戻してきたところで、やはり状況は大きく変わっています。この変化は広告以外の分野での映像の活用が広がっていることの現れでもあり、2022年はその流れがさらに加速した1年だったと言えるでしょう。

 

一方視聴者目線でも、映像を「消費」するスピードが年々速くなっていることを感じました。YouTubeやInstagramなどの媒体にあらゆる人が映像を投稿するようになり、流れる情報量が爆発的に増えたことで、新しいものが世に出てはすぐに消えてしまう状況が生まれています。この流れは今後もしばらく続いていくはずです。

 

このような流れの中で、弊社EDP graphic works(以下、EDP)にいただくご依頼でも「一瞬で目を引くこと」すなわち「インパクト」を求められることが増えたように感じます。もちろんいいものであることは大前提として、膨大な情報量の中から映像を見てもらうためには、キャッチ―で目を引く表現であることがこれまで以上に重要度を増しているのでしょう。

 

合わせて、SNSでの展開を想定した映像制作のご依頼も年々増加しています。これらは基本的にスマートフォンでの視聴を前提としたもので、縦型フォーマットでの制作となります。従来の横型と縦型とではダイナミックに感じる動きや最適な文字サイズなどにも違いがあるため、そうしたフォーマットにおける制作のナレッジを積み上げた1年でもありました。

 

しかし業界における最も重要なトピックスとしては、AIを活用した技術がクリエイティブにおいても実践的な段階に入ったことでしょう。MidjourneyやStable Diffusionなどの画像生成AIに関して、クリエイターの間でもさまざまな議論が巻き起こりました。ある程度の仕事が取って代わられる可能性には恐ろしさも感じる一方、僕自身としてはAI技術を肯定的に捉えています。

 

なぜなら、僕たちEDPがつくっているものはAIにはつくれないと考えているからです。

 

「なんとなくかっこいいデザイン」「なんとなくかっこいい動き」はAIにもつくれるかもしれません。でもEDPでは「なんとなく」でつくることはなく、その根底には必ずロジックが存在しています。そこには明確な違いがあり、AIによる「なんとなくかっこいい」がどれだけ発達したとしても、大きな脅威にはなりえないと考えています。

 

反対に、AIが生み出す思いもよらないビジュアルに刺激をもらうことはあるでしょう。AIは人間につくれないものをつくることには長けているため、僕たちは今後その使い方を習得して使いこなす側に回る必要があります。2023年につくり手がすべきは、AIを理解し、活用することかもしれません。

2022EDP

2022年も非常に多くのプロジェクトに関わらせていただきました。詳細はWORKSからご覧頂くとして、特に印象的だったものをご紹介いたします。

 

SANUKI ReMIX

https://www.edp.jp/works/sanuki-remix/

伝統工芸や地場産業を支える讃岐のアーティザン(職人)と日本を代表するアーティストを混ざり合わせることで、新しいアートプロダクトを開発し、その世界を体感していただくプロジェクト。クリエイティブディレクター小杉幸一氏と「丸亀うちわ」伝統工芸士の三谷順子氏のコラボプロダクトのイメージビデオの制作にあたり、映像全体のディレクション、デザイン、モーションを担当しました。

説明的な表現を避け、温度感を伝えるアート性の高い世界観を描きました。

 

Society for Gut Design concept movie

https://www.edp.jp/works/society-for-gut-design-concept-movie/

腸内細菌をコントロールすることによって腸内環境を適切にデザインし、健康長寿を実現することを目的とした腸内デザイン学会。彼らの学会やHPで使用する映像の制作にあたり、ディレクションからデザイン、モーションまでを担当しました。

プロダクトの思想に寄り添うことを大切にして、構造やデザインを作りこんでいったプロジェクトです。研究内容や専門用語など直感的に理解しづらい要素を噛み砕いてまとめ、ミニマルに落とし込んでいます。

 

CHUGAI MINING TVCM

https://www.edp.jp/works/chugai-mining-tvcm/

 

貴金属事業を軸に、不動産事業や機械事業、キャラクター商品のコンテンツまで多方面に展開している中外鉱業のTVCMで映像のディレクション、アートディレクション、モーションを担当しました。金属から始まり、様々な事業へ展開していく様をミニマルなデザインで表現しています。色使いと楽曲で上質さを、ダイナミックなカメラワークで熱量を持たせ、楽曲に合わせてブランドイメージを伝えています。

メッセージのコアとなる要素をいただき、それ以外はある程度お任せいただいて映像へと落とし込んでいきました。ふんわりとしたイメージからまとめあげていく力はEDPの強みでもあり、このように信頼してお任せいただけると力を発揮しやすいと感じました。

 

そのほか、社内プレゼン用の映像制作のご依頼をいただくケースも増えてきました。映像には大きな力があります。相手に想像させるのではなくビジュアルで見せられれば、インパクトを与え、ビジョンへの理解を深めることもできます。プロジェクトを進めるためにロゴと社内プレゼン用の映像をセットで制作するなど、このタイプのご依頼ではEDPとしてもチャレンジングな取り組みが多数生まれました。

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2022年はEDPの掲げるステートメント「Motion Graphic Design for human life.」を追及する一方、「そもそも自分たちは何をしたかったのか」に立ち返る中でアート的な部分を深めていく必要性を感じ、そのために動きはじめた1年でした。EDPのメンバーそれぞれがやりたいことをやるために、この動きは2023年も引き続き大切にしていきたいと考えています。

 

まず、2023年中を目途にオフィスの移転を予定しています。新しいオフィスには仕事をする場所だけでなく、展示ができたり、外部の方が出入りできるようなエリアも設ける予定です。実際に顔を合わせる場所があるとコミュニケーションもなめらかになり、一緒につくる楽しさをもっともっと感じられるはず。オフィス移転はコミュニケーションの環境を整え、チャレンジしやすい土壌を築いていくための第一歩と考えています。

 

またメンバーの動き方に関しても、現在のようにチームリーダーがプロジェクトをコントロールするだけでなく、一人ひとりがやりたいことをやれるようにサポートしていきたいと考えています。それはイベントでもいいし、登壇でもいいし、ものづくりだけに限りません。今までとは異なる領域で柱をつくっていくための、仕組みづくりをしていきたいと考えています。

 

2023年は、こういった動きを通して「フィールドを広げること」が目標となります。モーショングラフィックデザインの活用でもいいし、そこからはみ出た領域で知識を蓄えていくのもいいですね。大切なのは、視野を広く持つことだと考えています。

 

これは2023年で完結することでもなく、それ自体が今後のさらなる飛躍のための準備だと捉えています。さまざまなことを調べて、吸収して、動いてみる。そうやって土壌を耕して撒いた種が来年、再来年あたりに芽吹くことが理想です。花が咲くのはもっと先になるでしょうが、そこは長期的な視点で捉えています。特に若手のメンバーは、自分が「楽しい」と感じることにどんどん取り組んでみてください。

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フィールドを広げていくために、2023年は3つのことを大切にしたいと考えています。

 

1つめは「アイディア」。ふとした思いつきや「こんなものをつくってみたい」という衝動は、ものづくりにとって必要なものです。そうしたさまざまな瞬間に潜むヒントを掴んでいくことが、フィールドを広げることにも繋がっていくはずです。

 

2つ目は「ならでは感」。これは僕の想像にすぎませんが、クライアントさんがEDPに期待することの中には「EDPならでは」であることが含まれていると考えています。EDPのつくるものの中にある「癖」や「雰囲気」、そして「いい感じにまとめてくれるパッケージ力」。そういったEDPだからこそ求められていることを、あらためて見つめ直していきたいと考えています。

 

3つ目は「衣食住」。コロナ禍を経て、人々がお金をかける対象が大きく変化したように感じます。その中で、衣食住にこだわる傾向は今後もよりいっそう強まっていくでしょう。直接的に映像と絡める必要はなく、純粋に人々の変化として何かしらの形でEDPが貢献できるポイントがあるのではないかと思い、注力してみたい部分です。

 

そもそもEDPは、究極的には映像だけをつくる会社である必要はないと考えています。僕らが持っているスキルの延長線上に、パッケージデザインやファッションデザインなどアート的な側面を持つものがあってもいい。「Motion Graphic Design for human life.」というステートメントからは「世のため、人のため」の色を強く感じるかもしれませんが、だからといって「かっこいいものをつくりたい」「おもしろいものをつくりたい」といった欲求は常に持っているべきです。ステートメントに対するカウンターとしてアート的な感性は常に磨き続けないといけないし、その方がバランスを保てるのではないでしょうか。

 

最終的に「Motion Graphic Design for human life.」に辿り着くのであれば、入口がHuman Life的な部分であろうとアート的な部分であろうと、どちらでも構いません。純粋な内なる衝動に突き動かされてものづくりをしている人は強いもの。結局は「好き」という感覚を大切にすることが重要なんです。

 

こうした方向に進んでいくためにも、時代の流れを知り、接点を持つことがより重要になっていくだろうと考えています。これまでのEDPは「今いるメンバーで何ができるか」を起点に成長してきましたが、フィールドを広げ、つくるものの幅を広げていくには、周囲のさまざまな情報に触れ、自分なりに解釈し、取り入れていく必要があります。加えて、僕たち自身が発信することも重要になってくるでしょう。2023年はEDPらしいマイペースさやEDPならではのやり方は維持しつつ、世の中の流れとの接点をつくる1年となることを期待しています。

加藤 貴大(かとう きだい)


1989年愛知県生まれ。EDP graphic works 代表。ブランディング、インスタレーションを主に、デザインとディレクションを交ぜ合わせながら映像演出を行う。美術展の展示映像やサイネージなど、媒体にとらわれることなく空間の演出にも取り組んでいる。

Interviewee   加藤 貴大(EDP graphic works)

Photo              谷口 大輔

Interview&Text  長島 志歩