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2024/04/23Knowledge

クリエイターはAIとどう向き合う?- We×EDP 実験的展示イベント「AI TEN」を終えて

2024年1月12日(金)から18日(木)まで、ギャラリースペース A New Faceにて行われた実験的展示イベント「AI AI AI AI AI AI AI AI AI AI [AI TEN] 私たちの異常な実験」。EDP graphic works(以下、EDP)からは4名のディレクターが参加し、同じくモーショングラフィックデザインをてがける株式会社We(以下、We)との共催で実現しました。今回は参加メンバーが集い、本イベントの成り立ちや作品の着想、それぞれの考える「AIとクリエイティブ」に至るまで、幅広いトピックについて語り合いました。

 

Member
We 福田将己、古賀光紗、高森奈央子
EDP 前田光朝、有馬新之介、池田大、遠藤良太

※本インタビューは、2024年3月18日に行ったものです。

AI

―一風変わった展示でしたが、どのようなきっかけで企画が立ち上がったのでしょうか?

EDP graphic works 前田光朝(以下、EDP 前田):Weさんは同じモーショングラフィックデザインを主軸とした会社で元々仲が良かったのですが、昨年単独でAIに関する展示をされていたのが気になり観に行ったのがきっかけです。ちょうどEDP内でAIなどの先端技術に関する関心が高まっていたこともあり、「一緒に展示をやりませんか?」と僕らから声をかけました。

 

We 福田将己さん(以下、We 福田さん):Weでは「モーショングラフィックデザインで何ができるか」と常にアイディアを考えており、AIへの関心が社内でも盛り上がったことから最初の展示の企画が生まれました。正直当時の僕はまだ半信半疑だったのですが、その頃ちょうどEDP(奥田さん)が携わられたキンチョールのCMを知り、おもしろいなと。

生成AI「Midjourney」を使用して生成した画像をベースに、世界観を再構築

Kinchol TVCM


We 古賀光紗さん(以下、We 古賀さん):当時はまだAIが世間的に認知され始めた頃で、私達も手探り状態。この経験を次回に活かせたらいいな、と考えていました。

 

We 高森奈央子さん(以下、We 高森さん):AIはものすごいスピードで進化しているので、次に展示をやるならその進化も取り入れて新しいことに挑戦したいと考えていたところでした。


―EDPメンバーは、前田さんのアイディアを聞いてどう感じましたか?

EDP 有馬新之介(以下、EDP 有馬):AIに対しては、いつか絶対に向き合う必要があると思いつつ、これまで距離感をはかりあぐねていたのが正直なところ。今回の展示が良い機会になると感じて参加しました。

 

EDP 遠藤良太(以下、EDP 遠藤):僕は新しい技術にはまず触れてみたいタイプなので、もともと興味を持っていました。僕たちのやってきたことはAIに奪われてしまうのか、それとも利用できるのか……まずは触ってみたいなと。

 

EDP 池田大(以下、EDP 池田):僕も「まずはAIを触ってみたい」という点が大きかったです。またその背景には、モーショングラフィックデザインが登場してから長い時間が経っており、そろそろ新しいものを取り入れていくべきなのではという危機感もありました。

―今回の展示のコンセプトは「実験」だそうですね。

EDP 前田:「アーティストとしてアート作品をつくる」のではなく、あくまで「クリエイターが実験している様子を表現する場」をイメージしました。そのコンセプトのもとで、個々の作品はそれぞれが自由に創造しています。


―どのようにアイディアを生み出していったのでしょうか? 「AIができること」から発想するのか、「自分がやりたいことをどうAIで実現するか」と発想するのかなど、それぞれのアプローチをお聞きしたいです。

We 高森さん:私は環境問題や動物問題などに興味があり、AIで何をすればそれらの問題を広く世の中に伝えることができるのか、楽しみながら学んでもらえるのか、という発想を起点にツールや表現方法を考えていきました。

 

We 古賀さん:私の場合は「音を使いたい」が起点になっています。「作曲はできないけど、音楽の演奏がしたい」という自分自身の想いから形にしていきました。Weのメンバーは、「これがやりたい」から発想している方が多かったですね。

 

EDP 池田:僕はまずAIを触ってみるところから始めました。情報を集め、何ができるのか探るのにかなり時間をかけましたね。企画のネタはいろいろあるものの、実現するには個人として持っているスキル面でのハードルもあったりして、試行錯誤の連続でした。

 

EDP 有馬:やりたいことを考えつつ、平行して既存のAIツールでできるのか、自分たちで開発が必要なのかなど調べながら、それらを組み合わせていくようなプロセスをとりました。「こういうことができるのでは?」を実現する方法がなかなか分からず、初めの頃はAIツールのカオスマップを眺めたりしましたね(笑)。

 

EDP 遠藤:僕の場合は当時取り組んでいた案件の発想段階で、まずAIを使ってみることから始めました。この段階で、頭の中のイメージを思い通りに出力する難しさを感じましたね。

 

ただ視点を変えると、そういった思い通りにならないことも「AIあるある」なのではないかと思ったんです。その着想から「AIの失敗作品集」のアイディアが生まれました。

 

We 福田さん:AIのアウトプットのクオリティを決めるのはプロンプトエンジニアリングで、そこには作家性や文才が必要です。ただ、反対に若干の違和感をはらんだアウトプットの方が、クリエイターとしてはおもしろく感じたりもする。遠藤さんの作品はそういう部分が現れているのかもしれません。

  • 展示はA New Faceにて行われました

  • EDP遠藤の作品「AI変な生き物図鑑」

  • EDP有馬の作品「Augmented Altas」

  • We高森さんの作品「EARTH SHIELD」

  • EDP有馬の作品「EMILY – where I exist -」

  • We福田さん×古賀さんの作品「MUSHUP AM1:00」

  • EDP池田の作品「シンガン」

  • We松本さんの作品「空想感情鉱石図鑑」

  • Weサンドウさんの作品「神か悪魔か」

―有馬さんと遠藤さんの作品は、モーショングラフィックデザインではなく絵ですね。

EDP 有馬:どうすれば何ができるのかが掴み切れず、「これならできるかも」と思えたのが平面の表現だったというのが正直なところです。終わってみて思うのは、我々はAI使いとしてのレベルはまだまだだったなと(苦笑)。「こうしたらあとはAIが考えてくれる」なんて簡単なものではないと痛感しました。AIのアウトプットは学習したデータがもとになっているので、AIが学習した情報から意図的に逸脱したアウトプットを得るためには、指示の仕方に試行錯誤が必要でした。

 

We 高森さん:しつこく問いかけ続けると、「わかりました」とアウトプットしてくれたりしますよね(笑)。

 

EDP 遠藤:僕の場合はAIに委ね、「君の作家性を見せて」とお願いする感じでした(笑)。指示を重ねるとどんどん見たことのあるものになっていってしまうので、一発でいいものが出せるようにさまざまなプロンプトを試したり。


―古賀さんは音を用いた作品をつくられていましたが、どのような部分が難しかったですか?

We 古賀さん:音自体がそもそも非常に曖昧なものですし、AIへの指示としても「情緒的な雰囲気で」などのプロンプトになり、これもまたとても曖昧です。結果的にAIがつくったものと人間がつくったものを聞いてみても、そこに大きな差はあまり感じられませんでした。AIで音楽をつくるおもしろさが見えてくるのは、もう少しのことなのかもしれません。

 

We 福田さん:古賀さんの作品は「Melobytes」という音楽生成AIを利用しているのですが、非常に特殊なつくり方をしていて。画像生成AIのために準備したプロンプトをそのまま「Melobytes」にも入力し、それぞれでアウトプットされたものをつなぎ合わせているんです。

 

EDP 前田:同じプロンプトのもとで、絵や音楽など異なる形式のアウトプットを組み合わせるのはおもしろいですね。同じAIでも、音楽と画像ではさまざまな点で違いがありそう。

 

EDP 有馬:基本的に音楽は既存のコードの組み合わせなので、その数は有限であるという主張もありますが、それを越えた創造性が今後見つかるかも……と思うと期待感がありますね。

 

We 古賀さん:ドビュッシー(19世紀フランスの作曲家)が独自のコードを使って作曲をしたのと同じように、AIが「こういうコードもおもしろいよ」と提案をしてくれるようになれば、新しい音楽が生まれるかもしれませんね!

AI

―実際にAIに触れてみて、今後のモーショングラフィックデザインとAIとの関係はどのようになっていくと感じましたか?

EDP 池田:モーショングラフィックデザイン的なアニメーションをつくるAIツールもあったので、触ってみたんです。そのアウトプットには人には発想できない魅力はありつつも、「意味はない」と感じました。

 

EDP 有馬:そもそも現状のAIの映像へのアプローチは「画像生成の連続」ですが、モーショングラフィックデザインは「ものがあり、それを動かす」というアプローチなので、根底から大きく異なるのかも。ただしAIがその概念を持つようになったら、また変わるかもしれません。

 

EDP 池田:だからなのかな。現状は、モーショングラフィックデザインをつくっている感覚とAIにおけるものづくりでは、感覚の違いがありました。AIの場合は「この絵のあとはこの絵がくる」という予測の連続。それが変に変わっていくので、そこにおもしろさを感じたりもするんですけどね。

 

We 福田さん:映像編集AIを使ってみても思うのは、現状ではやっぱり人には勝てないなと。それは何かというと「文脈」に対する感覚なんですよね。「ここに10フレーム足して」「ここにこのカットを入れて」など、人間が感覚的につくりあげるその「感覚」をAIはまだ持ち合わせていないんです。だから、まだ完全に委ねるのは難しいかなと。


―AIへの指示出しでは言語化が重要ですが、そもそもモーショングラフィックデザインにおいて言語化を意識することはありますか?

EDP 前田:モーショングラフィックデザインにおいては、動きのイメージや完成形を頭の中で想像できるかがスタートだと思っていて、そこには感覚的な部分も多分に含まれています。擬音語で「グワーッ」とか「ビューッン」とか表現する感じ(笑)。

 

We 福田さん:僕たちも同じで、擬音語を使って指示出ししてます(笑)。音がない状態で音が聞こえる映像をつくるのが、モーショングラフィックデザインの醍醐味なんじゃないかなと。

 

We 高森さん:私の場合は絵を描いたり、イメージで共有することが多いですね。立体的にどう見せたいのか、どういう動きをさせたいのか、ジェスチャーも添えて伝えるようにしています。

 

EDP 池田:モーショングラフィックデザインをプロンプトにしていけるのか、まだ想像できないですよね……。感覚的な部分を言語化できるのか、どうか。

 

EDP 有馬:現状で言えば、言語化するのはかなり難しいなと感じています。ただ、今後はそういった言語化の動きが加速していくのかもしれません。

AI

―今後AIとはどのように向き合っていこうと考えていますか?

We 福田さん:「見たことのない表現やビジュアルを考えてほしい」というオーダーに対して、やはり人間は何かしらのリファレンスをベースにして考えてしまうので、最近はAIで生み出したビジュアルをもとに提案をしたりしています。まだまだメインで使うことはありませんが、サブとしてアウトプット前の企画やブレストのアイディアソースとして使っている感じです。そういう意味では、奥田さんのキンチョールの案件に近いと思います。

 

We 古賀さん:現状では、クリエイターはAIを使った映像は見れば一発でわかります。AIがそのクオリティを越えていくまでは、実用的に使うのはまだ難しいかも。とか言っていたら、いつの間にか越えられちゃったりするものですが(笑)。

 

EDP 有馬:方向はふたつに分かれるかもしれないですね。AIを使った表現としてのおもしろさを見せていく方向と、より実用的に馴染んだ表現を極めていく方向と。CGやVFXも、CGは「CGがすごい」と思わせる方向に、VFXは反対に「使っているのに気づかなかった」という方向に進んでいるような状況に近いのではないかと思います。


―モーショングラフィックデザインという立場から見ると、AIはどんな存在になりそうですか?

EDP 池田:きっと今後プラグインとしてAIを搭載したものはどんどん出てくると思いますが、それに対して嫌悪感や拒否感を抱く方もいらっしゃると思います。ただ、それだと時代に置いていかれてしまうのかもしれない。僕は共存できると思っていて、自分たちが便利に使う道具として今後もっと良いものになるだろうと感じています。

 

EDP 有馬:AIの使用については、僕らがどう思おうと関係なく進んでいくし、高いレベルのツールがどんどん出てくるはず。ただ「プロンプトを打てばモーショングラフィックデザインができる」という状況は、まだあまりイメージできていません。もう少し近い未来では、After Effectsのアニメーションプリセットのような使われ方なのかな。レイヤー数や動きの数を提案してくれる、みたいな。

 

そこに対して出るであろう「プリセットって普通あのまま使わないよね…」という一種のアレルギーのようなものが、池田さんの言う「嫌悪感や拒否感」なのかもしれません。手でひとつ一つつくってきた我々としては、どうしてもちょっとチープに感じてしまう部分ではありますからね。ただそういったことにも、うまく対応していく必要があると思っています。

 

We 福田さん:反対に、技術を持っていない人でも、アイディアややってみたいことがあるなら簡単に挑戦できるのはいいですよね。より一層、モーショングラフィックデザインがおもしろくなっていくのではないかという期待も感じます。

 

We 高森さん:一緒に企画を考えたりできるのもいいなと思っています。企画するには、自分が知っていること以外にも多くの情報をインプットする必要がありますが、AIがあればそれがかなりはかどります。「私はこう考えているんだけど、どう?」と会話していくような感覚で、自分専用のアシスタントにできるんじゃないかな。

 

EDP 遠藤:僕も同じ感覚です。チームに風変りな物知りデザイナーが入ってきて、おもしろいものつくるんだけどそのままは出せないから僕がチューニングする、みたいな感じ(笑)。

 

僕は映像をつくる上で、視覚的には既視感がなく、動きには既視感がある方がいいと思っています。AIは既視感がない方向では非常に有用だと思うので、ビジュアル面では提案をもらって、みんなに受け入れてもらえるようにこちらで体裁を整えていく、というやりとりができると、よりおもしろいものができるのではないかと期待しています。


―ありがとうございます!最後に、これからの展望を教えてください。

EDP 前田:一緒におもしろいことをしていきたいなと想いを込めて、今回は「WEDP」という名前で展示を行いました。AIに限らず、今後も共同でできることがあれば探っていきたいですね。実験的なことなど、是非共有しながらやっていけたら嬉しいです。

 

We 福田さん:僕たちにとっても大きな刺激になりました!また是非いろいろなことに一緒に挑戦していきましょう。

 

 

「AI AI AI AI AI AI AI AI AI AI [AI TEN] 私たちの異常な実験」

Creator
We 福田将己、古賀光紗、高森奈央子、サンドウ タカユキ、松本 豊
EDP graphic works 有馬新之介池田大遠藤良太

 

Support
We 高村水桜、飯高光輝

Photo              加藤雄太

Interview&Text  長島志歩