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2022/08/05Designer's Interview

人々の行動に影響を与える映像を作る

EDP graphic worksのデザイナーに迫っていく企画「Designer’s Interview」。第五弾は、思索力を武器に副社長兼ディレクターとして活躍する有馬 新之介にインタビューを行いました。生い立ちからデザインで作る未来について聞きました。

有馬 新之介(ありま しんのすけ)


President / Motion Graphic Designer

1982年東京都生まれ。精密機器メーカーの企画部社員を経て、モーショングラフィックデザイナーへ転身。現在では広告を中心に、TV/webなど媒体に関わらずモーショングラフィックデザインを武器とした映像を手掛ける。企画・演出からフィニッシュまで携わる形で様々なタッチポイントで映像に関わるスタイルで活動中。近年では「SmartHR School」、「Cleansui web movie」、「MEN’S TBC」などを手掛ける。

ー大学ではどういったことを学びましたか?


EDP graphic works 有馬 新之介(以下有馬)

大学は決まった学問を選択する必要がなく、建築や情報、メディア論など幅広い分野の学問を学びました。その後ゼミでは、人文科学の一つである言語学の研究をしました。


ー言語学に興味を持ったきっかけは何でしたか?


有馬

中学3年生の時の社会科の授業で1年間かけてレポートを書く課題があり、当時好きだったヒップホップのルーツである「アメリカに住む黒人文化」について書きました。その時に読んだトマスカーチマンの『即興の文化』は、アメリカに住む黒人と白人の異なる文化様式について書いた本で、そういった研究を面白いと思い人文科学に興味を持ちました。その後進学した大学で、幅広く学問を学ぶうちに普段意識せずに使っている言語の根底について探っていく言語学に興味を持ち研究対象としました。子どもが、文法を理解していなくても話すことができるように、言葉の体系の存在を知らなくても言語は存在するんですよね。そういった人間の思考や行動の背景にある原理や体系に興味があったんです。


ー中学時代に興味を持った人文科学から派生していったんですね。ところでデザインはいつ頃から興味を持ったんですか?


有馬

大学のPCに入っていたAdobeソフトを使って、仲間内でやったDJイベントのフライヤーを作ったり、所属していたアメフトサークルの新入生歓迎会用のチラシを作るうちに興味を持ちました。就職するときは、趣味の範囲でデザインをやりながら、社会人として仕事は別でしていこうと考えていたため、卒業後は精密機器メーカーに就職をしました。

ーなぜメーカーに就職されたんですか?


有馬

プロダクトによって人の生活や考え方が変わることに興味を持ったことですかね。私が高校生から大学生にかけての間に普及したカメラ付き携帯電話は、当時の人々の写真撮影のハードルを下げ、「コミュニケーション方法のパラダイムシフトを起こした」と感じてます。ひとつの製品が人々の考え方や行動を変えたという意味では、人文科学に興味を持ったことと通じていて、人々の行動に影響を与えるプロダクトづくりに関わりたいと思ったんです。


ーメーカーではどういったことを担当していましたか?


有馬

企画部で、新製品のコスト管理や、発売されるまでのスケジュールの管理を担当していました。計画した通りにうまくいく事はほぼなく、問題が出てくるたびに関係部署と連携を取りながらスケジュールや予算の調整を行わなければならない。なので、とにかくたくさんの知識量と、折衝力が求められた場でした。


ーメーカーで働きながらもデザインはしていたんですか?


有馬

そうですね。知り合いのフライヤーを作るのを手伝ったりはちょこちょこありました。ただ、1人でデザインをしていたため師匠的な存在もおらず、頼んでくれる人も、プロにお願いするわけじゃないからっていうスタンスで、中途半端な甘い環境の中ではなかなか成長できないのではと感じてました。私の性格的にも、仕事として向き合わないと、なあなあになってしまうので、「デザインをしたいという気持ちがあるのであれば、仕事としてやるぐらいじゃないと駄目だ」と思い、軸足を変えようと転職をしました。中途半端にデザインを趣味でやり続けることに心残りがあったことも大きいですね。

ー映像を作るEDPに入社した理由はなんだったんですか?


有馬

当初はグラフィックデザインの仕事に就くことも考えてましたが、友人からの「グラフィックデザインの仕事は歴史も長く、プロパーな道を辿っていない人はなかなか入り込めない」というアドバイスもあり、デザインに関われる仕事を幅広く探していました。当時モーショングラフィックデザインは比較的新しい分野であった為、まだまだいろんな考え方を取り込んでいるのではないかというアドバイスもありEDPに飛び込みました。EDPに入社した時は、畑違いの人間がどういう扱いを受けるのかと不安な部分もありましたが、周りの人たちは一戦力として扱ってくれ、びっくりした反面、面白いと思いました。


ーどのような経緯でチームを率いるようになったんですか?


有馬

入社当初はVFXをメインで担当していました。できることは限られていましたが、先輩デザイナーに教えてもらいながら必死にできることを増やしていきました。入社してから1年半後の2015年後半に、これまでの社会人経験を買われチームリーダーを任されました。


ーチームを率いるようになってから意識するようになったことはありますか?


有馬

クライアントと直接対峙するようになったことで、前職での経験が更にいきてきたように思えます。これまでプロジェクトを通じ多くのプロダクションマネージャーとお話をする機会がありましたが、彼らが直面しているのが、まさに私が前職で直面していたことと似ていると思うことが多々あり、業務の大変さに勝手ながら共感することが多くありました。最終的にいいアウトプットを作ってクライアントに喜んでもらいたいと映像作りに関わる人みんなが思っていると思います。そのためにも、ポジショントークに陥ることなく、私自身が味方であるということを表明し、前向きなディスカッションができるようにしています。

ー「プロダクトによって人の生活や考え方が変わることに興味を持った」ことがメーカーに入社した動機ですよね。実際EDPに入ってから直近で人々の生活様式が変化したと思う出来事はありましたか?


有馬

多くの方が感じていることだと思いますが、新型コロナウイルスが私たちの生活に与えた影響は大きいなと感じています。EDPでも2020年春にリモートワークに切り替わったように、多くの会社でリモートワークが実施され、現在では打ち合わせする際もオンラインが前提になることが多いですよね。そんな社会の変化を感じ始めていた頃に行った社内での企画ミーティングで、モーショングラフィックデザインでZoom背景を作る案が上がりました。オンラインでのコミュニケーションが増えるこれからの時代、顔と一緒に表示される名前が動いていればセットで覚えてもらえ、ピッタリじゃないかと思ったのを覚えています。


ー普段から動く名前が入ったZoom背景を利用されてますよね。


有馬

2020年春頃に作成してからは動くZoom背景を使用しています。実際、動くZoom背景は名前を印象付けるのに非常に役に立っていると思っています。それまでは初対面の際に名刺交換をするのが一般的でしたが、オンラインで名刺交換ができなくなった今でもZoom背景を通じて自己紹介ができるようになりました。Zoom自体は我々のプロダクトというわけではないですが、Zoom背景をプラットフォームとしてコミュニケーションのあり方を少しアップデートできたのではないでしょうか。


ー2020年に発表した「MotionWall 100」もそこから派生した企画なんですか?


有馬

そうですね。我々としても目先の人だけでなく、その先にいる人たちや、さらには社会に役立つことができるといいなと思い行った取り組みです。EDPに在籍するクリエイターが、独自の世界観でZoom背景を作成し誰でも無料でダウンロードして利用できるようにしました。みなさんが気軽にモーショングラフィックスに触れ、個性豊かな背景で楽しい気分になることを期待したこの取り組みは、時代の変化にうまく合致した取り組みになったのではないかと思っています。

  • 動くZoom背景

ー日々のコミュニケーション方法にコロナがきっかけで変化がありましたが「これからのコミュニケーション」と言った時、どのように変化していくと思いますか?


有馬

ここのところ気になっていることがあって。YouTubeでいいPVとかがあがるとコメント欄に自分語りとかやけにエモーショナルな”いいこと”が書き込まれるという現象があることに気づいて、個人的に「コメントポエム」と呼んでいるのですが、これは何なんだろうと気になっています。思うに、エモーショナルなコメントをすることで「いいね」が欲しいという承認欲求の発露なんだと思うのですが、ここにSNS時代から更にコミュニケーションのあり方が徐々に変容してきている兆しを感じます。


ーこれまでもSNSの発達は社会に大きな影響を与えてきましたよね。


有馬

これまでもSNSは承認欲求を満たすツールとして機能してきたと思います。でもこれまでのSNSは「誰が、何をやっているか」に対する評価、つまり「人」に対する承認であるという側面がある程度強かったように思います。一方、YouTubeのコメントに対する「いいね」は最早誰のコメントであるかにはあまり着目されておらず、人から切り離された「言葉」にフォーカスされていると思います。人から行為へと承認の対象が移っていき、よりインスタントな承認欲求へと流れが移っていくような空気を感じていて、社会の転換点の只中にいる感覚がありますね。


ーコミュニケーションツールやその使用方法、またそれによって生まれる新たな価値観に興味があり注目をされているんですね。


有馬

いい悪いではなく、人々の考え方や行動は変わっていくものだと思います。そこには変わった分だけ新たな課題も生まれてくると思います。例えば、SNSによって承認欲求が満たされることで救われる人がいた一方で、承認されることのハードルが下がり承認されることが当たり前になったことで、逆に承認されないことにストレスを感じる人が出てくることが社会問題になったりもしました。今後もコミュニケーションのあり方が変わっていく中で、課題の形も変わっていくと思います。我々はデザインをすることで、人々のコミュニケーションを円滑にしています。我々の力が課題解決のために役立つ場面もあると考えており、そのためにも我々はアップデートを続けながら、社会のあり方を見ていく必要があるかと思っています。

コミュニケーション方法が多様化する現代、映像を使いどのような関係を視聴者と築いていきますか?豊富な知識に裏打ちされた映像を作り続けるディレクター有馬は、これからも人々の生活をより良く面白いものにする作品をみなさんと共創していきます。

MotionWall 100


EDPが設立したレーベル「WAKU」から「MotionWall 100」と題し、Zoomなどで使える「動くバーチャル背景」を配布しています。今回紹介したZoom背景から派生した独自の取り組みとなっており、100点以上のバーチャル背景がすべて無料でダウンロードして使用可能です。

お気に入りの背景を見つけ、個性を表現したり、リモート会議での話題作りなどにご活用いただいてはいかがでしょうか?

ダウンロードサイト : https://motionwall-100.tumblr.com

Interviewee      有馬 新之介 (EDP graphic works Co.,Ltd.)

Photo     谷口 大輔

Text     大野 泰輝