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2023/03/23Designer's Interview

あらゆるものに生命を吹き込み、生活に溶け込む表現を

EDP graphic worksのデザイナーに迫っていく企画「Designer’s Interview」。第6弾は、ディレクターとしてチームを持ち始めて1年の遠藤良太にインタビューを行いました。映像をはじめたきっかけから、表現のこだわりやそのルーツについても聞きました。

映像制作をはじめたのは大学生の頃。通っていたデザイン学部の授業で映像をつくるという課題があり、モーショングラフィックスに挑戦したのがきっかけです。講師の先生にも褒めていただき、その流れで先生が札幌のVJ(ビジュアルジョッキー)カルチャーを盛り上げようと行っていた若手や新人の映像作家を集めたデビューイベントにも出ることになりました。参加を決めたのは、褒められて気分が良かったこともありますね(笑)。

 

ただし「参加するためには映像素材を100個つくること」という条件があったんです。準備期間は1か月しかないので、とにかく思いつく表現を片っ端からつくっていきました。本当に大変でしたが、おかげでソフトの使い方も一通り覚えられたし、そこで得た経験や「思いついたらすぐアウトプットする力」は今も活きているなと感じます。無事そのイベントでデビューし、結果的にVJは大学を卒業するまでずっと続けました。

 

VJのおもしろさは、やはり目の前のオーディエンスからダイレクトにレスポンスが返ってくることにあります。映像の切り替わりで沸く瞬間の生の反応がおもしろいし、その反応から「この表現がいいのか!」と学ぶこともあります。もちろん狙った通りにいくことばかりではありませんが、オーディエンスも「このあと来そうだぞ」という予感を感じとってくれるので、その反応を見ながら映像を切り替えたり瞬時に対応していくのが醍醐味です。どんな音楽が流れるのかもそのときまでわからないため、瞬発力や臨機応変さが身につきました。

VJを続ける道もあったかもしれませんが、ライブの良さがある代わりに完成度の面で満足できないこともあり、「納得のいく形で映像を見てもらいたい」という思いから異なる道を選び、EDPに入社しました。それでも音楽と合わせて編集する際のリズムのとり方など、VJの経験はいまだに自分の中に活きています。

 

入社したての頃は代表の加藤さんについて学びました。2019年の「GACHA GACHA COFFEE」は代表の加藤さんがディレクション、僕はモーションデザインで参加した案件です。この案件から、徐々に自分らしいアニメーションの「クセ」を出せるようになってきました。VJ時代はわかりやすくかっこいい「映える映像」を目指していましたが、アニメーションにキャラクター性を持たせるように変化してきたんです。

 

GACHA GACHA COFFEE
https://www.edp.jp/works/gacha-gacha-coffee-by-maruyama-coffee/

これはモーションをつけるときも同様で、ただの「形」にも性格を設定するようにしています。人間にも歩みが遅い人と早い人がいるなど、さまざまな違いがあるはず。それは生き物でなくても同じで、似たような形のものがたくさんあったときに、皆同じ動きをしていたらおもしろくありません。それがただの「形」だとしても、キャラクター性を持たせることで魅力的になるんだと感じたんです。

 

2020年の「47 INTERNSHIP」はまさにこの考え方が活きた案件です。同じような丸や四角でできた47個の人間のアイコンに対し、それぞれキャラクター性を持たせて違いを見せることができました。

 

47 INTERNSHIP
https://www.edp.jp/works/47-internship-motion-movie/

2022年の「Makuake Global」はディレクターとしてはじめてフロントに立ち、企画提案から行った案件です。「応援購入という仕組みについて説明したいけど、どうしたらわかりやすく伝えられるか?」という相談から始まったもので、クライアントさんと直接やりとりしながらつくっていきました。こういった概念的なことを表現する場合も、僕は形やモノを使って表すことが多いかもしれません。このMakuake Globalでも、丸や箱を使って応援購入の仕組みを伝えるアニメーションをつくりました。

 

Makuake Global
https://www.edp.jp/works/makuake-global-brand-movie/

先ほどキャラクター性の話をしたように、どんなモノでも「生き物のようにする」ことを大切にしていて、最近はコマ撮りアニメーションなどにも興味を持ちはじめました。プリセットやAIでつくるのとは異なり、「この流れならこの動きを描かないといけない!」という細部のこだわりを突き詰められるのがおもしろい部分です。

 

例えば漢字の「止め」「ハネ」はアニメーションツールでつくると流れで処理されてしまう部分ですが、ロゴアニメーションにするなら、ちょっと行き過ぎて戻ったりする生き物のような勢いや動きを加えたいところ。その場合、やはりイメージ通りに仕上げるにはひとつずつ自分の手でつくる必要があるなと感じています。

 

実は最近90年代のディズニーアニメーションを見直す中でも、同じようなことを感じたんです。モノが動いて止まるときの一瞬行き過ぎる動き、ベッドにシーツをかけるときの一瞬手を上にあげる動きなど、やはり「何かが宿っている感じ」がするんですよね。ディズニーは『ディズニーアニメーション 生命を吹き込む魔法 ― The Illusion of Life』というアニメーションの12原則をまとめた本も出していますが、アウトプットされたものからそれを感じ取っていたと言えるかもしれません。

 

こういった生命を吹き込むエッセンスや表現を魅力的にする要素は、日ごろさまざまなエンタテインメントに触れる中でもふっと感じることがあります。例えばゲームをしていても、その動きや表現にふと「なんかいいな」と思うことがあります。おもしろいゲームには、ロジェ・カイヨワが「遊びの4分類」と呼んだ「競争」「運」「真似」「めまい」の要素が含まれていることが多いそうで、こういったエッセンスを加えることが、映像をより良いものにするために必要なのかもしれません。

「やってみないか」と挑戦する機会を頂き、昨年1月にルーム長(ディレクター兼チームリーダー)になりました。

 

ルーム長になってもっとも強く感じたのは、言語化することの大切さです。自分がフロントに立つようになってはじめて、これまで上司や先輩がすべて言語化してくれていたことに気づきました。ルーム長になったら自分のチームでつくったデザインを守るのは僕の仕事ですし、そのためにはしっかり言語化して何がいいのかを相手に伝えなければいけません。

 

思い出すのは、大学の先生の「自分がつくったものは我が子だと思え」という言葉です。自分がつくったものの良さを伝えることなく捨ててしまったら、誰にも見つけてもらえずに消えてしまいます。それは本当に悲しいこと。この子が良い形で世の中に出ていけるように、何がいいのか言語化して説明するのはディレクターである僕がやるべき仕事です。我が子を育てて独り立ちさせていく、そのことをしっかり意識しなければいけないなと感じています。

 

同時に、自分たちがつくったものが社会にどのように還元されているのかもっと体感する必要があることも感じました。納品した映像がどこでどのように流れていて、見た人はどう反応しているのか、これまであまり意識できていなかったんです。

 

そのことを強く感じたのは、2021年の「Google Pixel 6 Pro」の案件でした。

 

Google Pixel 6 Pro
https://www.edp.jp/works/google-pixel-6-pro-promotion-movie/

 

映像がお披露目される大阪のショッピングモールまでチームメンバーを連れて見に行ったところ、大々的に発表イベントが行われていて、「……それがこちらの映像です!」と僕たちがつくった映像が紹介されて、それに対してお客さんもたくさん反応してくれていて。その様子を見ることができてとても嬉しかったんです。

 

そこには自分のルーツであるVJにハマった瞬間の感覚や、人が自分のつくったものを見ているところを見たい、つくったものがどう受け止められているかを知りたいという思いもあるかもしれません。やはりつくったものが社会の中に入っている実感を得ることは重要で、より一層意識していきたいと考えています。

 

最終的には「生活の中に入っていきたい」んですよね。暮らしを豊かにする、とまでは言い過ぎかもしれませんが、通りかかってわくわくするような、ちょっと生活をおもしろくするようなものをつくりたいんです。

 

現状の街中のサイネージ表現などは、まだまだつくる側のエゴが強いのではないかと感じています。通りかかる人はそこで何を得られるのか、その映像はどうやって人の役に立っているのか。次のステップは、そこまで考えて空間に溶け込んでいくことかもしれません。そうやって生活にどんどん近づいていって、エンタテインメントと実用性のいい案配のものをつくる、今後はそのようなことに携わっていければと思います。

 


1995年生まれ。茨城県出身。大学でデザイン学を専攻。2018年EDP graphic works に入社。CIデザインを始めとしたブランディング映像、インスタレーション、TVCMの製作に携わる。遊び心のあるアニメーションを得意とし、文字やキャラクターをイキイキと演出する。

Photo              谷口 大輔

Interview&Text  長島 志歩