EDP+
  • EDP+
2023/05/11Designer's Interview

変わりゆく「個性」に、期待と葛藤をもって向き合う。

EDP graphic worksのデザイナーに迫っていく企画「Designer’s Interview」。第7弾は、この2月に新たにチームを持ったディレクター 木村祐太にインタビューを行いました。未経験で入社してさまざまな案件に携わる中、常にあった「個性」との向き合い方にもご注目ください。

一般の四年制大学を卒業後、就職したのはIT・通信系企業の営業職です。当時はやりたいことや夢が明確ではなかったし、好きだった絵もあくまで趣味として考えていて、働くということに対して漠然としたイメージしか持っていませんでした。

 

そんな状況だったので、すぐにミスマッチが浮き彫りになりました。満員電車で通勤して仕事をこなすような毎日に馴染めず、群衆の中に埋もれてしまっているような気持ち悪さを感じて、まるでゾンビになったかのような感覚に陥ってしまったんです。

 

そうして社会人3か月で早くも転職活動をすることになり、EDP graphic works(以下、EDP)と出会いました。絵を描くのが好きだからという理由でグラフィックデザインの会社を中心に探していたのですが、実務経験もなければデジタルツールも使えないとなると応募さえできない状況で、未経験OKだったEDPは最後の頼みの綱でした。

 

実はEDPに応募する際、ポートフォリオがなかったので自分で描いた絵を投稿しているInstagramのアカウントを載せて送ったんです。今考えればひどい応募者ですし、入社後に先輩にも「Instagramのアカウントを送ってきたのなんてお前ぐらいだよ」と言われましたが(笑)、そういった部分も含めておもしろがってもらえたのは良かったですね。

 

はじめてモーショングラフィックデザインというものに触れたときに感じたのは、「デザインだけでなく動かす要素も加わるなんておもしろい!」ということ。子どもの頃から家族の影響でさまざまな映像作品に触れてきたものの、自分でつくるなんて考えたこともなかった自分が、何かをつくれるようになるかもしれない。EDPへの入社は、そんな未来への期待に満ちていました。

入社後、まずは制作に携わりながらツールの使い方や表現の基礎を覚えていきました。一部のみを担当する案件を重ねながら徐々に全体に関われるようになっていくと、やったことのない表現を自分で考えながらつくることも増えて、とにかく楽しかったことを覚えています。もちろんゼロからのスタートなので苦労することもたくさんありましたが、それさえも「おもしろいものをつくれるようになるための道のり」として前向きに捉えていました。

 

さまざまな案件に携わる中で常に意識していたのは、「自分の表現できる幅を広げる」ということです。実は「Kitamura Camera V.I.」などに見られるアブストラクトな表現も、はじめは苦手意識を持っていたんです。絵を描くときも具体的なモノや形を描くことが多いので「抽象表現ってどうすればいいんだ?」と感じていたんですが、案件を通してシンプルに描くことのかっこよさに気づけたのは大きな収穫でした。

この案件ではモーショングラフィックデザインは一部のみ担当していますが、全体の編集も自分が担当しています。編集にはモーショングラフィックデザインとは異なる視点が求められ、全体を俯瞰して見て考える必要があるのがおもしろいポイントです。

 

自分にとって編集とは「再構築」という言葉が一番あてはまるかもしれません。一度できあがったものを壊す必要があり、まるで彫刻をハンマーで叩いて壊し、ばらばらになった破片からもう一度別の何かをつくりあげるような感覚です。

 

モーショングラフィックデザインにしても編集にしても、大切にしているのは「まずは1回つくってみること」です。一度「やりきった」と思えるまで形にしてみて、その後全体を見ながらあらためて考えるようにしています。やはり一回つくってみると、思いもよらない部分で「こうした方がいいかも」と気づくこともあります。そこから副産物的に生まれてくるものも多いので、もう1回同じようにつくるのは難しい場合も多いかもしれません。

未経験からはじめて仕事をしていく中で、これまで映像をはじめとしたさまざまな作品に触れてきたこと、それが好きなことは助けになりました。映像に限らず、惹かれるのは「つくり手の強い個性が見える作品」で、今でもよく見ているのはYoung Thug, Freddie Gibbs & A$AP Fergの『Old English』という曲のMVです。

Young Thug, Freddie Gibbs & A$AP Ferg — Old English

もともと好きな作品でしたが、この仕事についてからは「自分もいつかこんな表現ができるようになれたら」という視点で見るようになりました。また、つくり手が誰なのかを調べるようになったのもこの作品がきっかけです。やはり「これをつくったのはあの人だろう」と名前を見なくてもわかるような人がいるんですよね。そういう個性がありながら、常に新しいことに挑戦しているクリエイターには強く惹かれます

 

個性とはいつも同じような表現をしていることではないですし、やはり「なんか自分、最近いつもこればっかりだな」と思うようにはなりたくありません。インプットがないと自分の頭が凝り固まってしまうので、さまざまな作品を見ることは非常に重要だと考えています。映画から絵画、デザイン、MV、ロゴアニメーションまでさまざまなものが表現の参考になりますし、そういった表現をどう実現するのか、技術的なチャレンジを日ごろからストックするようにしています。

BRIDGESTONE BATTLAX HYPERSPORT S22

担当した「BRIDGESTONE BATTLAX HYPERSPORT S22」は、そうやってインプットを重ねてきた中で「挑戦してみたい」と思っていた手法や表現を初めて活かせた案件です。

最近では、仕事と趣味の垣根がわからなくなるぐらいの感覚でやらせていただける案件もいただいています。普段自分はどこか「飛び道具」的な存在なのですが、自分のデザインでやりきれるようになったのは嬉しいですね。

「BRIDGESTONE」のお仕事のように、クライアントさんの希望するものと自分のやりたい表現との掛け算をもっとうまくできるようにすることが当面の目標です。求められていることをしっかり押さえつつ、自分の個性や作家性を上乗せできるように引き上げていきたいと思っています。

 

ただ周囲の反応を見るに、飛び道具としての自分の「クセ」が以前に比べて丸くなってきたのかなと感じる場面も増えました。自分としてはクセを出していきたかったので、何とも言えない気持ちですが……。もしかしたら自分が「かっこいい」「気持ちいい」と感じる動きそのものが変わってきたのかもしれません。入社当時に比べて見る作品の幅が広がった影響もあるでしょうし、いろいろな人のいろいろな要望に答えていくのがデザイナーですから、技術的にもマインド的にも幅を広く持っていた方が良いと考えて意図的にそうしてきた部分もあります。

 

でもやっぱり自分がやるからには何かしら「自分らしさ」を載せたいし、作品を見たときに「これは木村祐太の作品だ」とわかる個性を出したいんです。それはいい意味で「ふざけてる」というか、自分自身のキャラクターが反映されているものなのかな。まだまだ思うように柔軟にはできないので、日々悩み続けています。

 

掛け算を目指す上では、今年の2月から自分のチームを持つようになったことがひとつの解決策になりそうです。求められていることに答えるのが得意なチームメンバーがいるので、自分は飛び道具としてしっかりふざけられたら、最終的にいい案配になることに気づいたんです。

 

もしかしたら、全てを自分ひとりで抱え込む必要はないのかもしれません。それぞれが得意なことを活かしながらチームとしてバランスをとって、押さえるところは押さえつつ飛び道具も出せるチームになる。もちろん今が完璧なわけではありませんが、その兆しは見えています。悩みながらではありますが、入社の際に感じていたようなわくわくする気持ちを大切にして、いいものを世に出し続けていきたいですね。

 


1994年福岡県生まれ。2017年入社。 アナログ感や手描き感のあるイラストやデザイン、ダイナミックな映像表現を得意としている。 自身もクリエイターとして活動し、アートやカルチャーに通じている。自身の活動と映像表現との融合がテーマ。

Photo              谷口 大輔

Interview&Text  長島 志歩