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2025/01/06Philosophy

モーショングラフィックデザインをカルチャーにできるか? 原点に立ち返って迎えるEDP graphic worksの2025年

「“デザインを動かす”ことで、“人の心を動かす”」という使命のもと、さまざまな映像やモーショングラフィックデザインに取り組んでいるEDP graphic works(以下、EDP)。2024年の2つの大きな試みは、これまでの活動の集大成となり、またEDPとして原点に立ち返るきっかけともなりました。代表・加藤貴大へのインタビューを通して、2024年の振り返りと2025年の展望をお届けします。

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2023年年始の記事で「フィールドを広げる」という目標を掲げてから2年経ちますが、2023年、2024年とまさにその言葉通り、EDPではさまざまなことに取り組んできました。オフィス移転をきっかけにギャラリー「A New Face」をつくり、「新規事業としてどんなことをやろうか?」とリサーチや手探りを重ねてきたのが2023年。2024年はそれらが少しずつ形になり、あらためてスタートラインに立つことができた1年だったと思います。いろいろな可能性を見たうえで照準が定まり、考えがまとまってきましたし、いくつかの作品やプロダクトもできて、一定の達成感を得ることができました。

 

まずは、2024年に実施した2つの取り組みについてご紹介させてください。

Rights.of.Motion

新規事業は以前からやりたかったので、2024年は腰を据えて動き出すことができて本当に良かったです。「そもそも新規事業って何だろう?」というところからはじまり、教育系の動画コンテンツやモーショングラフィックデザインを見るのに特化したモニターといった実現方法さえ未知数のプロダクトまで、検討段階では本当にさまざまなアイディアがメンバーから出ました。

 

そんな過程を経て、はじめて形になったのがNFTアートプロジェクト「Rights of Motion」です。

 

「Rights of Motion」では、EDPがこれまでに積み重ねてきた技術と経験をアートとして楽しみ、所有する喜びを提案することを目指しました。その名の通り、モーショングラフィックデザイン自体に「Rights = 権利」をという意志を込めたプロジェクトで、第1弾となる『ZUKEI #0』シリーズでは、角がひとつもない「◯(円)」をモチーフとして、総勢11名で43もの作品を制作しました。

 

「Rights of Motion」に辿り着くまでの間、その検討の過程では、通常の業務とは異なる視点や発想が求められ、メンバーにとってはおもしろい半面苦しい場面も多々あったと思います。NFTに関しても一時期のブームが去り、だからこそ本質的なアーティストが残っていることを伺い、未来に向けて今チャレンジするのがよいのでは?と今回実施に踏み切ることになりました。結果的にとても新鮮なチャレンジができたこと、そしてそれらを形にできたことは、非常に嬉しく思います。

 

加えて、「NFTをやろう」と旗を立てたことで、これまで知らなかったメンバーの一面を知ることができたのも大きな収穫です。意外なメンバーがノリ良く参加してくれたり、普段は硬めの表現をつくることの多いメンバーが自由な発想・表現を発揮してくれたりして、メンバー同士での再発見もたくさんありました。作品を見てくださる方だけでなく、社内のメンバーに対しても、良い機会を提供できたのではないかと手ごたえを感じました。

 

関連リンク

News「NFTプロジェクト『Rights of Motion』始動、販売開始のお知らせ。」

もうひとつの取り組みが、2024年11月にフランス・パリで開催した特別展「うごきのカタチ」です。人がいつも感じている動きを私たちがどうモーショングラフィックデザインで視覚化しているのか、またそれを現実に落とすとどう見えるのかをアートとして表現することで、モーショングラフィックデザインを視覚だけでなく実体験できる展示をめざしました。

 

実は、はじめはモニターをたくさん並べて映像を見せようかと思っていたんです。でも、それではあまりにも直球すぎておもしろくない。そこで「リアルに動くものをつくろう」という縛りを設け、その先はメンバーに考えてもらいました。どういう形状がいいのか、素材は何がいいのか…など、本当にまっさらな状態からのスタートでしたが、普段とはまったく異なるゼロイチのものづくりを形にできたことは、とても素晴らしい成果だと感じています。

 

正直、はじまるまでは不安もありましたし、参加したメンバーも必死だったと思います。何かのフェスティバルに便乗する形ではなく、EDPだけでいきなりパリで個展を行うことはとてもチャレンジングでした。結果的には、1週間の間に700人以上の方が展示を観に立ち寄ってくださるなど大変好評で、メンバーにとっても大きな自信につながったのではないかと思います。

 

この取り組みを社内でもしっかり共有し、今後につなげていければと考えています。

 

関連リンク

 特別展「うごきのカタチ」特設サイト

この「うごきのカタチ」展開催の背景には、モーショングラフィックデザインの価値を高め、アートやカルチャーへと昇華させる一助になれないか模索したいという狙いもありました。

 

たとえば絵画なら美術展、音楽ならフェスなど、他の領域ではコンテンツを楽しむ開かれた場や機会が既にあり、それらがコンテンツの楽しみ方を広く浸透させる助けになっています。一方モーショングラフィックデザインにおいては、まだまだそういった場や機会があまりありません。他の領域と同様に、モーショングラフィックデザインを深く知り、たくさんの作品を見る機会が増えれば、より多くの方が表現の中の細やかな動きの機微や質の違いに気づくことができ、見る楽しみを見出せるようになるのではないでしょうか。

 

そんななかで、僕たちEDPはモーショングラフィックデザインのプロフェッショナルとして、そして「動き」のプロフェッショナルとして、こんなに楽しい世界があることをもっと世の中に伝えていかなければと考えました。

 

だからこそ、展示は映像ではなく物体で行いました。モニターに流れているだけではなく、普段は実態のないデータだけのモーショングラフィックデザインという存在を、モニターの中からから引っ張り出してきて、その動きにまるで身体を与えるような取り組みができたら…きっとみんな見たくなるのではないかと考えました。

 

作品をつくりあげていく過程では、「クッションがぐっと凹むような動きをしたら、そこにないボールの存在を感じ取れるのでは」「たくさんの小さな球体がランダムに動いていたら、ハエがいると感じるかも?」など、さまざまなアイディアを検討しました。動きの機微によって性質や感情が表現できるおもしろさをどうすれば表現できるか、動きというものにカタチを与えるにはどうすればいいか、エンジニア集団のnomenaさんのご協力のもと模索した結果、「うごきのカタチ」展ができあがったのです。

 

そもそも「動き」とは何でしょうか? 正直、これまでは僕たちも人に説明できるほど突き詰めて考えられていなかったかもしれませんし、今でも説明するのはとても難しいです。でも、だからこそ開拓されていない領域を切り拓いていくおもしろさもあり、結果的に非常にチャレンジングな試みとなりました。

思えば、このパリでの展示は一昨年「Motion Plus Design Tokyo 2023」に協賛させていただいたことをきっかけに話が立ち上がったものです。モーショングラフィックデザインの価値を伝え、みんなに知ってもらえる場をつくりつづけているMotion Plus Designに純粋に共鳴する気持ちからはじまった取り組みが、このような形へとつながって非常に嬉しく思います。

 

そういった方々の活動の成果もあってか、以前と比較してモーショングラフィックデザインに対する認知度があがってきていることを実感しています。クライアントから頂くオーダーがより具体的になってきたり、良いリファレンスをあげてくださるようになってきたり、「自分たちの思いを表現するには、どういうモーショングラフィックデザインが適しているか」を明確にお持ちのケースも増えてきました。

 

そのような変化を受けて、僕たちクリエイターは、今後より一層の提案力が必要になるだろうと感じています。クライアントの求めるものを満たすことはもちろんのこと、より本質的な動き、より考えやメッセージが引き立つ動きとは何かを考え、提案しつづけていくことが必要なのではないかなと。

 

そんな見通しを持つなかで、「うごきのカタチ」展は僕たち自身にとっても必要な試みであり、改めて「動きとは何か?」に立ち返る良いきっかけになりました。

20251

ここ数年をかけて土壌を耕し、撒いてきた種。2024年はその発芽を見守り、育つべき芽を選別することができました。2025年はそれらをきちんと鉢に植え替えて、水をやり、花を咲かせる年にしたいと考えています。

 

まずは、2024年に形にすることのできたNFTアートプロジェクト「Rights of Motion」、そして「うごきのカタチ」展をしっかりと育てあげ、大きく成長させていきたいと考えています。その第一歩として、「うごきのカタチ」展の凱旋展示をEDPのギャラリースペースA New Faceで2025年3月5日から3月21日に行います。ぜひたくさんの人にご来場いただけたら嬉しいです。

 

一方で、これらの取り組みで得た知見や経験も踏まえ、2025年はクライアントワークにおいても少し向き合い方を変えて取り組んでいきたいと思っています。アウトプットのクオリティに関しては、既に高水準でご提供できている自負はあるのですが、さらに深く考え抜いた提案を行ったり、もう一歩踏み込んだ関わり方をすることを通して、「EDPってこんなこともできるんだ」と新しい一面をどんどんお見せしていきたいです。そういったことを通じて、受発注の関係を越え、より根源的な部分の検討段階から関わっていければと考えています。

 

実は、新しいものづくりへの挑戦として、既にとある会社さまと一緒に空間インターフェースの開発に着手しています。彼らとのコラボレーションを通じて新たなカルチャーづくりを目指すこのプロジェクトについても、2025年にはその詳細をお知らせできるはずです。今後もさまざまな作品やプロジェクト、そしてモーショングラフィックデザインに触れる新しい場や機会をつくっていければと思います。

Photo

谷口 大輔

奥田 祥生 (EDP graphic works Co.,Ltd.)

 

Interview&Text

長島 志歩