国も言語も越えた「動き」の探求と挑戦 パリ展示を経て「うごきのカタチ」は何を目指す?
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後列左から遠藤良太、加藤貴大、佐藤広基、稲田開、伊良皆貴大、奥田祥生
前列左から小池紅子、内田理穂、鈴木絢香
2024年11月21日(木)から1週間、フランス・パリのマレ地区で行われた展示「うごきのカタチ – La forme du mouvement」。EDP graphic works(以下、EDP)から9名が参加し、エンジニア集団nomena(以下、nomena)協力のもとで、モーションを現実に落としこむとどうなるのかをアートとして表現した実験的な展示です。
今回は本プロジェクトに参加したデザイナーのうち代表の加藤を除く7名が集い、パリでの展示や本プロジェクトを通じて感じたことを振り返りながら、これからはじまる日本での凱旋展示、そして今後の活動に向けた思いを語り合いました。
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稲田開、伊良皆貴大、内田理穂、遠藤良太、奥田祥生、小池紅子、佐藤広基
初めての「モノ」づくりで得た達成感と高揚感
-まずはパリでの展示を振り返ってみていかがでしたか? 達成感を感じたことや、作品づくりの過程で感じたことなど、教えてください。
稲田:何よりも「作品そのものがとても良くできた」と感じています。コンセプトをしっかりと反映したものができたと思いますし、使用する素材やデザインも非常にうまくまとまり、「見たことのないもの」「ミニマルで格好良いもの」が実現できたのではないかなと。
展示を観てくださった方にも、それぞれに印象的な体験をしていただけたのではないかと思います。まったく意識していなかったのですが、「日本らしさや侘び・錆び、禅の心を感じる」とコメントをいただいたのも嬉しかったですね。なるべく削ぎ落し、伝えたいことだけが無駄なく伝わることを大切にしていたので、それが日本的なものとして映ったのかもしれません。
遠藤:実体のあるモノをつくった経験がなかったので、nomenaさんの協力によって作品ができあがっていくのを見て、「本当につくれるんだ…!」と感じましたよね。nomenaさんがつくってくれた実機は、伊良皆さんの草案をベースに僕たちでまとめた初期イメージがほぼそのまま形になっており、かなり気持ちが高まりました。その経験自体がとても新しくて楽しかったです。
伊良皆:僕が提案したアイデアは、全体的な見栄えやイメージのみでしたが、そうやって自分がやりたいと思ったことがこうして形になったのが、まずとても嬉しかったです。よく「カオスなものっていいよね」という話をしていたのですが、最終的にまさにそんな「ちょっと変わった雰囲気の空間」をつくることができたので、個人的にも満足しています。
観るだけでなく、中に入って戯れてもらいたい
-実際にプロジェクトメンバーの皆さんで、パリまで赴いたそうですね。期間中には700人もの方が作品を観たとうかがいましたが、彼らのどんな反応が印象に残っていますか?
小池:通りすがりに窓の外からふっと中を覗いて、興味を持って立ち寄ってくれる方が多かったです。また、近くに美術の予備校があったようで、先生が観にきてくれた後すぐに学生さんが何人かで観にきてくれたのも印象的でした。アートとの距離感が日本とはまったく違うんだなと、文化の違いも少し感じましたね。
内田:作品のコンセプトについてお話ししたところ、連れてきていたお子さんにじっくりと伝えてくださっている親御さんがいたのも印象的でした。作品の中に入りやすいように誘導してあげると、動く球の真似をして一緒に動いて遊んでくれたりして。映像だとこういった光景はあまりないので、実際のモノがあることのおもしろさを感じました。
佐藤:森の中を歩くようなイメージで、マシンとマシンの間をお客様に歩いてもらうことを想定していたので、楽しんでもらえて良かったです。ただ、お客様の中には緊張してしまったり、作品の中に入っていいのかわからずに戸惑っている方もいて、周囲から眺める感じになっていたのも見かけました。日本での凱旋展示のときには、中に入って観てもいいのだとわかるような案内が、何かしら必要かもしれません。
「動きを考える」EDPのコアを伝える作品に
- 「映像の会社なのに、映像ではなくモノの展示で」という部分が、今回のユニークなポイントですよね。それぞれどのような期待を持って臨み、何が得られましたか?
稲田:代表の加藤さんから「映像ではなくモノを」という話があった時は、正直驚きもありましたが、チャレンジングですし、勝手がわからない分無邪気に自由な発想で考えられるのがいいなと感じました。最初にみんなでアイデアを持ち寄って話した時からとてもわくわくしましたし、結果的にも良い試みになったのではないかと思います。
もちろん「実現できるのか?」という不安はずっと頭の片隅にありましたが、それもnomenaさんとの出会い、そしてプロトタイプを見た瞬間に解消されました。頭の中で考えていたものが形になることには、映像とは異なる別の感動がありますね。
遠藤:映像にしろ実体のあるモノにしろ、ものづくりにおける感覚自体は近いことを感じました。ディティールを詰める感覚、伝え方や伝わり方など、クリエイティブなものづくりの考え方や感覚には共通する部分が多いんだなと。
奥田:普段僕たちは、動きについて考える仕事をしています。ディレクションやデザインの側面もありますが、やっぱりEDPのコアにあるのは「動きを考える」ということであり、僕たちはその動き一つひとつを誰よりも高い解像度で見ているという自負があります。可愛い動き、格好いい動きなど、一般的にはざっくりした概念で分けられている中にも微細な違いがあり、そこを意識して映像をつくっているということを、この展示を通して知っていただけたら嬉しいです。さまざまな種類の動きやその違いを理解し、それらを上手く組み合わせることで、僕たちEDPの映像ができている…その根本を知っていただけたらなと。その試みとして、今回の展示は良いアウトプットになったのではないかと思います。
アート、アカデミック、道具として…拡がるコラボレーションの可能性
- 2025年3月8日(土)からの日本での凱旋展示に向けて、内容の調整などは考えていますか?
奥田:基本的な構成は同じですが、パリの展示で感じたことや、日本とフランスとの違いなどを考慮して調整できればと考えています。会場の形も変わるので、動きもアップデートできたらなと。また、マシンとマシンの間を歩けることなどは、もっとわかりやすく案内したいです。
- 凱旋展示は、どのような方に観にきてほしいですか?
伊良皆:パリでの展示では、まずは自分たちにできることや、やってみたいことを一通りやることができました。そのうえで、音楽や別のアートとのコラボレーション、アカデミックな方向性との交差、作品を情報伝達のための道具として観る視点との接続など、さまざまな分野への拡張性を感じたので、日本の展示では、そういったことに一緒に取り組める方に観にきていただけたら嬉しいです。
内田:実はパリでも、元Dragon AshのATSUSHIさんとの偶然の出会いがあり、そこからダンスパフォーマンスという形でのコラボレーションにつながったんです。まったく想定していなかったことですが、異なる分野で活躍している方が展示を観て、「自分ならこの作品をこう使う」と私たちにはない発想で応えてくれたのが本当におもしろくて。そうやってアイデアをいただける方、一緒に何かできる方と、たくさん出会いたいですね。
小池:もちろん、どんな方が観ても「ちょっと不思議でおもしろいもの」だと思うので、たまたま通りかかった方などにもふらっと立ち寄っていただけたら嬉しいです。
「うごきのカタチ2.0」はどうなる?
- 今回の展示は、「うごきのカタチ」として初めての試みでした。今後、どのような取り組みへと発展させていきたいですか?
稲田:今回はまず、普段映像の中で動きや緩急などを扱っているEDPが、それらを立体化させて装置をつくったというところが一番のポイントでした。ここから先は、「モーションを形あるものにした」ことからはどんどん離れていって、想像もしていなかったところに行きつくといいなと思っています。
先ほどのATSUSHIさんによるボディパフォーマンスは良い一例で、そうやってパフォーマンスと組み合わせたり、舞台装置としてミュージックビデオで使ってもらったり、別の作品と組み合わせた展示を行ったり…さまざまな可能性が考えられるはずです。
佐藤:今マシンは12機なのですが、個人的には50機ぐらいの大群にして、美術館などにずらっと並んでいるところを見てみたいですね。大群になることでインパクトも増しますし、そこに全体としての連動性も加えたら、さらに違うものが見せられるのではないかなと。
遠藤:まさに、作品に集団としての連動性をつけたら、よりエンタメ性を帯びておもしろいものになるのではないかと考えています。一つひとつの動きとしては緩急がついているだけでも、時間差をつけることで波に見えるようになるなど、微調整することで集団として見たときによりおもしろいものになるのではないかなと。
奥田:現状は一つひとつに異なる動きをつけて、それぞれを見るような展示内容ですが、何十機かでひとつの動きを表現するような設計は、たしかにやってみたいですよね。そうすれば、線が集まって面になるような表現なんかもできるんじゃないかな。
小池:nomenaさんとのお話の中で、「作品全体から感じる不思議さが強い分、本来伝えたかった動きのおもしろさが伝わりにくくなっていないか?」という反省点はあったので、今後解消していけるといいなと思います。たとえば、現状ではマシンの棒を支えている箱の存在がノイズになっている可能性があるので、床から棒が伸びているように見えるように床ごとつくってしまう…なんてことも考えられるかもしれません。
- 社内で報告会も行ったとお聞きしました。プロジェクトメンバー以外の方からは、どのようなコメントや反応がありましたか?
奥田:報告会では、展示のコンセプトや制作のプロセスなどを説明し、パリに行って感じたことも共有しました。メンバーからも「映像に携わる会社で、物理的な作品の展示をするとは思っていなかった」などの反応をもらい、あらためてEDPとしての自由度であったり、映像だけに縛られることなくどんどん挑戦してほしいというメッセージが伝わる、良い機会になったのではないかと思います。
まずは「取り組むこと」が実績となり、未来へとつながる
- 今回のプロジェクトへの参加、そしてパリでの展示の経験は、ご自身の中でどう活きるものになりましたか?最後にぜひ、それぞれの視点で聞かせてください。
伊良皆:モーショングラフィックデザインという通常の業務は大切にしつつも、それらとは異なる取り組みも増やしていくことで、会社としてのおもしろみや広がりが生まれるのを感じたので、今後もぜひ取り組んでいきたいです。あとは、やはり海外での経験は非常に刺激になったので、別の場所でも展示をしてみたいですし、他のメンバーにもこういった経験をしてもらえたらいいなと感じました。
奥田:自分たちで考えたアイデアを、国も言語も関係なく楽しんでもらえる経験ができたのは、本当に良かったです。今後もアイデアを主軸に、どんなフィールドでもおもしろいものをつくれるように、モーショングラフィックデザインや映像という文脈は大切にしつつも、既存の手法や既成概念にとらわれることなくさまざまな表現に挑戦していきたいです。
佐藤:映像だけでなく、さまざまな表現方法を常に頭の中に持っておいて、いろいろなものをつくっていきたいです。つくるために新しく何かを勉強するのもいいですし、その幅を意識していこうと感じました。
内田:私は普段の業務でも「手法は問わない」と言われると、いろいろなことを試してみたくなる性分なので、あらためてそういったことのおもしろさを実感しました。
本当にこの作品は、美術館、屋外、海外など、さまざまなシチュエーションに私たちを連れて行ってくれる存在です。これからも彼らにいろいろな場所に連れていってもらって、その場所ごとの空気を感じられたらと思います。
小池:実は、これまではあまり能動的に動けるタイプではなかったのですが、今回のプロジェクトを経てコミュニケーションに対する心理的なハードルがさがり、外に向けて働きかけることのできる自分になれたように感じます。私自身にとってすごく良い変化なので、これをきっかけに外とのつながりを大事にしたいですし、この状態を逃したくないと感じています。それくらい、良い機会になりました。
遠藤:時間もコストもかけて会社にとっての財産をつくったので、それを発展させていくことが会社への還元になると考えています。ここで得た経験を発展させていって、そこから生まれてくるものを、会社や他のメンバーにも還元していきたいです。
稲田:モーショングラフィックデザインはこれまでもこれからも変わらずEDPの主軸となるものですが、未来のために何かしら新しいことに取り組まなければいけないだろうとずっと話してきました。
今回のプロジェクトもそのひとつではありますが、結果的に、そこに対して明確な目標設定はなくてもいいのではないかと感じました。なぜなら、展示を観にきてくれた方々から、想像もしていなかったような感想や可能性をもらうという確かな収穫があったからです。
まずは取り組むことが大切であり、それが実績となり、その先の可能性や未来につながるのだと思います。だからこそ、今後もこのような取り組みを積極的に仕掛けていければと思います。
うごきのカタチ – Shape of Motion –
企画制作:EDP graphic works Co., Ltd.
制作協力:nomena
会期:2025年3月8日(土)〜3月21日(金)
開場時間:11:00〜19:00
場所:ANewFace 東京都渋谷区神宮前3-1-14 LE REVE 1F
参加アーティスト:稲田開、伊良皆貴大、内田理穂、遠藤良太、奥田祥生、加藤貴大、小池紅子、佐藤広基
入場:無料
特設サイト:https://ugokinokatachi-tokyo.studio.site/
プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000080557.html
Direction 鈴木 絢香(EDP graphic works Co.,Ltd.)
Interview&Text 長島 志歩
Photo EDP graphic works