カンファレンスでも埋もれない映像を目指して。Nstock × SmartHR × EDPで挑んだ勝負の1本
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右からSmartHR HaruMakiさん、meraponさん、EDP 有馬。Nstock minminさんはオンラインでの参加となりました。
※Nstock・SmartHR両社はニックネームで呼び合う文化があり、本記事でもそれに倣って記載しています。
株式報酬が持つ本来のポテンシャルを最大限に引き出すSaaS「Nstock」を開発・提供するNstock株式会社。株式会社SmartHRから生まれた注目のスタートアップです。Nstock社と親会社であるSmartHR社がクリエイティブディレクション、EDP graphic worksがディレクションとモーショングラフィックデザインで参加したNstock初の映像制作プロジェクトでは、ビジネスカンファレンスでの放映を見据えて「参加者の視線をあげるには?」が大きなポイントとなりました。本記事では、プロジェクトに携わった各社のメンバーが集い、取り組みの背景や映像制作の過程について振り返りました。
※Nstock株式会社は2025年4月25日付で株式会社SmartHRの連結子会社及び持分法適用会社から外れ、独立した経営体制へと移行しております。本記事は取材を行った2025年3月時点の情報をもとに作成しています。
Member
Nstock 松田 佳大(minmin)
SmartHR 金森 央篤(merapon)、髙橋 晴香(HaruMaki)
EDP graphic works 有馬 新之介
カンファレンスで「見られる」映像を求めてプロジェクトがスタート
-今回Nstock・SmartHR・EDPという3社のプロジェクトとなりましたね。まずは、本プロジェクトが立ち上がった背景や経緯を教えてください。
Nstock minminさん:Nstockでは、スタートアップが多数参加するビジネスカンファレンス「B Dash Camp」に毎年スポンサーとして出展しており、1分間のPRムービーの放映権が与えられるのですが、これまでは創業したてということもあり活用できる映像がなく、権利を使えずにいました。そんな中、2024年5月に「そろそろ映像をつくってもいいのでは?」という話になり、このプロジェクトが立ち上がりました。
しかし、当時Nstockのマーケティング担当は僕ひとりだけ。映像制作に関する知見もなく、リソース面での不安もありました。そのため、親会社であり、さまざまな面でサポートいただいていたSmartHR社を頼るべく、meraponさんに相談を持ちかけました。
SmartHR meraponさん:僕が所属するSmartHRのニュービジネスマーケティング部では、社内の新規事業やグループ会社のマーケティング、コミュニケーションデザインなどの支援などを行っています。今回もその一環としてプロジェクトに参加することになったのですが、話を聞いて、真っ先に「EDPさんが適任かもしれない」と思いました。
-EDPを適任として想起いただいたのは、どのような点からでしょうか?
SmartHR meraponさん:Nstockはデザインへのこだわりが強く、創業者の宮田昇始さんも造詣の深い方なので、「印象に残る映像をつくりたい」という強い意志を持っていました。そのためには、メッセージ性とビジュアルを両立させる力と、「Nstock初となる映像はどうあるべきか」を導く提案力が必要です。既にSmartHRのサービス紹介映像などで何度もお取引の実績があり、クオリティや進め方を信頼していたことから、EDPさんが適任だと考えました。
Nstock minminさん:Nstockでは「ブランドは一過性の取り組みでは創ることができず、また不可逆的なものである」という考えを持っているため、“それっぽいもの”や“中途半端なもの”は作りたくないと考えていました。しかし、映像はテキスト、グラフィック、アニメーションなど⋯さまざまな要素が絡み合うコンテンツ。だからこそ、この体制やフェーズできちんとクオリティの高いものがつくれるか、不安があったんです。
また、今回はビジネスカンファレンスでの放映が目的であるため、かなりの数の企業映像と比較されることになります。凡庸なものでは印象に残らないし、そもそも映像をちゃんと見てもらえない可能性もある。でも、meraponさんのEDPさんへの信頼度に触れて、「ここなら大丈夫かも?」と思うことができました。
映像でどこまで説明すべき?.方向性を探る鍵となった絵コンテの力
-カンファレンスで放映することを踏まえて、具体的にどのようなオーダーをいただいたのでしょうか?
SmartHR HaruMakiさん:まずは「参加者に目線をあげてもらう」ことを意識したオーダーをしました。「起業家の皆さん」という呼びかけから始めることで、視線をあげてもらいたい。さらにはフォントの大きさ、モーショングラフィックデザインの演出、セリフ回しなども、その軸に沿った「強気」を感じるものにしてほしいとお伝えしました。
SmartHR meraponさん:みんなが顔を上げて見る映像、印象に残る映像にするためには、よくある課題解決型やサービス紹介のような映像は避けたい一方で、何を言いたいのかわからない映像でもいけません。その塩梅については、プロジェクト開始後も度々議論しましたよね。完成版と比較すると、初期の頃はもう少しサービスについて具体的に説明する内容を想定していました。
Nstock minminさん:そもそもNstockは、スタートアップでありながら3事業を並行して立ち上げているやや特殊な会社です。また、金融や法制度に関わる事業が多いため、言っていいことと悪いことの線引きも複雑です。会社全体を説明するには、3つの事業内容に触れる必要があって冗長になるし、一方で1つの事業に絞りすぎると、よくあるサービス紹介動画に落ち着いてしまう。コミュニケーションの軸をどこに置き、具体と抽象のバランスをどう取るか、本当に悩みました。
-有馬さんは、まさにその議論がなされているタイミングでプロジェクトに参加されたと伺いました。
EDP 有馬:そうですね。参加した際の第一印象は、「これは一筋縄ではいかないぞ」と(笑)。具体と抽象のバランスが、非常に難しそうだなと感じました。
参加後は、まずそもそもストックオプション自体に馴染みがなかったため、NstockとSmartHR の皆さんにレクチャーいただくところから始めました。とても丁寧に説明していただき、ストックオプションの意義や仕組み、スタートアップ企業における価値、そしてそこにどうNstockが貢献しているのかを理解することができたと思います。
そのうえで、先ほどの議論を踏まえつつ、ある程度具体的な説明をする前提で絵コンテをつくり、映像のビジュアルイメージもいくつか制作してお渡ししました。それらをたたき台として、方向性に関する議論を深めていきました。
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プロジェクト初期にEDP 有馬が作成した絵コンテ
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プロジェクト初期にEDP 有馬が作成した絵コンテ
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プロジェクト初期にEDP 有馬が作成した絵コンテ
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プロジェクト初期にEDP 有馬が作成した絵コンテ
SmartHR meraponさん:振り返ると、Nstock社内で「自分たちとそのサービスを1,2分の短い映像にしたときに、何が一番響くのか?」をまだうまく言語化できていませんでしたし、聞かれることが多い故に「機能面の紹介をしなければ」という意識が強くあったように思います。
でも、有馬さんからいただいた絵コンテを見た時に、「もしかしたら、もっと熱いメッセージや、Nstockが目指したい世界観を伝える必要があるのでは?」と気づいたんです。先行して有馬さんがたたき台をつくってくださったからこそ、しっかりと方向性を議論して整理することができたと思います。
Nstock minminさん:有馬さんには絵コンテはもちろんのこと、先行してさまざまなものを目に見える形にし、プロジェクトをリードしていただけたのでとても助かりました。おかげで、議論が空中戦になることを避けられました。
EDP 有馬:ものづくりにおいては、見ていただけるものがないと議論が空中戦になってしまい、プロジェクトが進まないことが往々にしてありますよね。まず自分なりに理解し、咀嚼したものを提示し、判断を仰ぐ──普段から心がけていることが、功を奏して良かったです。
キューブに託したNstockの価値。具体と抽象の絶妙なバランス
-映像では、キューブのモチーフが印象的に使われていますね。なぜこのモチーフとなったのでしょうか?
EDP 有馬:キューブは、具体と抽象のバランスをとる上で象徴的なモチーフでした。中に何かを入れることもできるし、積み上げたり、展開したり、物語性のある動きをつけられるので、抽象度を高く保ちつつ、今回のプロジェクトにおける構造的な話を映像で語るのに最適です。セレクトの背景には僕自身の好みもありますが、良いご提案になったと感じています。
EDP 有馬:キューブの表現に関しては、特に最終的な収束のさせ方についてかなり議論しました。課題に対するダイレクトな解決策を見せて締めることもできるし、もう少し大きな視点を持ったメッセージを伝えることもできる。結果的に、大きなメッセージではふわっとした印象になりすぎると考え、バランスを調整しながら現在の形に落とし込みました。最後まで悩んだ部分ですが、良い形でまとめることができたのではないかと感じています。
SmartHR meraponさん:映像上でプロダクトのユーザーインターフェースをどの程度抽象化して表現するかも、かなり丁寧にすり合わせを行いましたよね。
SmartHR HaruMakiさん:初期の頃はユーザーインターフェースを詳細に見せていく方法も考えましたが、映像の耐久年数が短くなってしまう点と、既視感の強い表現になってしまう点がネックでした。有馬さんのご提案も踏まえて議論した結果、現在のような表現に落ち着きました。
-プロジェクトのなかで印象的だったフィードバックなどはありますか?
EDP 有馬:方向性やプランに対して、創業者の宮田さんからいただいたフィードバックが印象的でした。スタートアップの最前線を走る方には今回の映像がどう見えるのか、事前に知ることができて、ブラッシュアップの際の大きなヒントになりました。特に、スタートアップ企業の経営者は判断スピードが速く、「いらない」と決めるのも一瞬なので、そこに対してどうフックをつくるかが重要であることを再確認できたのが良かったです。
徹底的なすりあわせから生まれた「これだ!」と思える映像
-完成した映像をご覧になって、率直にどう感じましたか?
SmartHR HaruMakiさん:初期段階から感じていたことですが、視線誘導がとても綺麗で、目に嬉しい動きが詰まった映像になったと思います。イメージにマッチしていて、かっこよくて、本当に嬉しく思います。
また、今回ストックオプションというあまり身近でないものが題材の映像でしたが、斬新さばかりを強調することなく、斬新さと身近で親しみやすい表現との調和もいいところに落とし込んでいただけました。結果的に、伝えたいことがきちんと伝わる映像になったのではないかと思います。
個人的には、ナレーションにこだわりました。「強気」を感じるけれど男性的すぎないバランスを考慮して、前に進む意思が伝わる女性のナレーターにお願いしました。
SmartHR meraponさん:きちんと目指す形になったという点では、やはり本格的に映像をつくる前段階の部分で、方向性やイメージを徹底的にすり合わせることができたのが大きいなと感じています。「なんか違う」がなく、「これだよね!」と思えるものになりました。
Nstock minminさん:Nstock初の映像として、「これが1本目でよかった!」と思えるものになりました。今もしプロジェクトの始まりに戻ったとしても、同じ方針でつくると思います。EDPさんにはしっかり寄り添っていただけて、とても満足しています。
より良くできた点としては、実際にカンファレンスで動画を流した際に「少し場に溶け込みすぎてしまったかも?」と感じたので、より目を引くために演出や表現にこだわれるとよかったかもしれません。カンファレンスのような場ではモーショングラフィックデザインを用いた映像を流す企業も多いので、そんななかでもちゃんと見てもらえるように、次はどこでインパクトをつくるのか、にもっとこだわりたいと思いました。
EDP 有馬:確かに、僕らのようなつくり手側は、「良いものなら見られる。良いものには価値がある」と盲目的に信じがちですが、実際はそうとは限りませんよね。たとえば、つくり手としては一見手抜きに思えても、「よく見るフォーマットや表現の方が見やすい」と視聴者が捉えるケースも存在します。
より良いモーショングラフィックデザインをつくりつづけるために邁進することは当然として、それがすべてではないということも理解し、モーショングラフィックデザインをどう使うべきか、求められていることに対してどう応えるべきかなどの視点を持って、今後も臨んでいきたいです。
これからの時代にこそ価値を発揮する「妥協のないものづくり」
-映像が見られる環境の変化や、今後のあり方に対して、皆さんはどう感じていますか?
SmartHR meraponさん:発信側としては、手法以前にそもそも「どうありたいのか」「何をしたいのか」をしっかりと持つことが大切です。それによっては、表現方法として映像ではないものの方が適したケースもあるかもしれませんが、映像だからこそできることもあると感じています。
個人的には、最近「言語化」が少し過大評価されすぎているのではないかと思います。言葉に落とし込む際にディティールやニュアンスがこぼれ落ちてしまうのに対して、非言語のコミュニケーションや映像など体験することによって得られるものには、とても豊かな情報が含まれているな、と。今後その価値は、もっと上がるのではないでしょうか。
SmartHR HaruMakiさん:AIが普及しはじめ、アウトプットを生み出すハードルが下がった一方で、クオリティが追いついていないという側面もありますよね。でも企業側の視点で言えば、アウトプットのクオリティは企業の価値や信用に直結するものであり、どんなに良いサービスでもアウトプットがお粗末では、不信感につながりかねません。
映像領域においても、AIがつくったものが増えていくと思いますが、だからこそしっかりと熱量と労力を注ぎ込んでつくったものこそ、その価値が発揮される場面が増えていくのではないかと思います。
Nstock minminさん:玉石混交のコンテンツが溢れ、映像をつくる際にも「自分たちだけの軸」が求められる時代になってきたのを感じますね。何も考えなくてもそこそこの映像は作れる時代、だけどそれでいいんだっけ?みたいな。だからこそ、発注側がしっかりと映像やモーショングラフィックデザインだからこそできることをもっと知って、より自分たちらしいアウトプットができるように理解を深めるべきかなと思います。
-ありがとうございました。最後に、今回のプロジェクトを振り返って一言お願いします。
Nstock minminさん:初めての映像制作に不安を感じていたなかで、有馬さんと出会い、EDPさんの実績を見た瞬間に感じた「この会社なら信頼できそう」という印象は、映像が完成するまで変わることはありませんでした。本当にいいものをつくっていただき、感謝しています。
SmartHR HaruMakiさん:何度も考え直し、整理した映像の目的や方向性を、丁寧に汲み取って映像に落とし込んでいただいたのがとても印象的でした。EDPさんにお願いして良かったですし、楽しいプロジェクトでした。
SmartHR meraponさん:EDPさんからの提案やアウトプットを見ると、目指しているラインの高さを感じて、嬉しい気持ちになるんです。「こういうことでしょ」みたいな、いわゆる「置きにくる」ようなことが一切なく、常に妥協なく良いものをつくろうという気概をひしひし感じたのが、今回ご一緒して何よりも嬉しかったポイントですね。
EDP 有馬:発注側・受注側という関係はありますが、これだけフランクに且つ細かい部分まで話せるオープンなコミュニケーションを取れたからこそ、「一緒につくっている」と感じられてとてもありがたかったです。今後も良い形でご一緒できれば嬉しいです。
Nstock株式会社
Nstockはストックオプションなどの「株式報酬」と「金融」を入り口に、日本のスタートアップエコシステムをブーストする会社です。株式報酬を変えることで、日本からビッグテックが生まれ、経済成長を実現できると考えています。現在は、ストックオプションをはじめとした株式報酬のポテンシャルを引き出すSaaSの開発に加え、セカンダリー事業、スタートアップへの再投資事業の検証を進めています。。「スタートアップエコシステムを進化させ、日本からGoogle級の会社を生み出す」というミッションのもと、スタートアップで働く人々がより報われる社会の実現を目指します。
株式会社SmartHR
2013年1月23日設立。2015年11月にクラウド人事労務ソフト「SmartHR」を提供開始。人事・労務業務をペーパーレス化し業務効率化を叶える機能にくわえ、蓄積された情報を活用し組織戦略を支援する「人事評価」、「配置シミュレーション」などのタレントマネジメント機能や採用活動から従業員登録までを一元化する「採用管理」機能を提供。さらに、外部システムとの豊富な連携や、アプリストア「SmartHR Plus」を通じて、幅広い顧客ニーズに対応したサービスを提供しています。
SmartHRは、労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会の実現を目指し、働くすべての人の生産性向上を後押ししています。
Direction 鈴木 絢香(EDP graphic works Co.,Ltd.)
Interview&Text 長島 志歩
Photo 谷口 大輔